ふたりぼっち | ナノ




いつつめ
   └五



「あーそうなんですよ、俺は元々違うとこの生まれで」


すでにベロベロに酔った彼は、ヘラヘラ笑いながら答えた。


「末っ子なんでフラフラしてたんですけど、ここはこの通り住みやすいし仕事にも困らないし…それで場所なんで住み着いたって感じですかね」

『ほお…確かに村人は少ないですが暮らしは豊かそうですね』

「そうなんですよ!それにほら、美人も多いし!」



…薬売りさんが彼を標的にした意味がわかった。

お酒のせいもあるのだろうけど、どうも思慮深い感じではなさそうだ…


まぁ、人がいいって事なんだろうけど。


この勢いなら何を質問しても答えてくれそうだ。



『そうですね、これじゃ永住したくなる気持ちもわかりますよ』

「でしょー!?あ、そうだ!村の出身の嫁さんとそうでない嫁さん、すぐに見分けがつくんですよ!」

『へえ…どうやって?』


若い漁師さんはコソっと薬売りさんに耳打ちする。



「この村出身の女はみーんな派手顔、でも他所から来た女は地味顔!なんつって!あははは!」

『………』

「………」



こっそり話したはずの声は、内緒話には不向きなほど大きくて。

私の耳にまでしっかりと届いてしまった。



(何だか失礼な言い草…)


とは思いつつも、確かにパッと目を引くような美人が多い。

はっきりとした顔立ちは、綺麗というか妖艶というか…



(…薬売りさんの好きそうな顔立ちだな)



苦い顔をしている私に気付かないまま、漁師さんはちょっと呂律が回らないまま尚も続ける。


「俺も最初は不気味だって思ったんですけどねぇ」

『不気味?何が…』

「うわーーん!」



薬売りさんが聞き返すと同時に、庭の方から子供の泣き声が響いた。

ハッとして庭の方を覗くと、数人の子供たちの中で一番小さそうな子が泣いている。



「まーた兄弟喧嘩して!」


同じように庭を見た女の人が、声をあげた。

どうやら彼女の子供が遊んでいる内に喧嘩してしまったようだ。


子供を叱りながら泣いてる子をあやす姿を見ながら、若い漁師さんが

「ほら、あの人は他所から来た嫁さん」

と、薬売りさんに言っているのが聞こえた。



(本当に失礼というか無邪気というか…)


再び苦い顔をしながら庭を見ていると、庭の端に薄浅葱の着物を見つけた。


(あ…さっきの女の子…)


岩場で見た女の子が、一人、庭の隅で地面に木の枝でえを描いている。

他の子達とは一線おいている様な雰囲気だ。



「今度喧嘩したら人魚岩から捨てちゃうよ!」


叱っていた女の人の言葉に、薬売りさんがぴくっと反応した。


『…人魚岩?』



若い漁師さんは「あぁ」とお酒を次ぎながら答える。


「ここに来るときに通りませんでした?あの変な風音のする岩場」

『ああ、あそこ』

「あそこが、なんで人魚岩…なんですか?」

「んー、なんでもあそこに人魚がよく出るって…まぁよくある昔話でしょうけど」



彼は自分もお酒を煽りながら苦い顔をした。



「漁村に人魚、なんて不気味でしょう?実際あーやって子供を叱る時なんかに使われてる訳だし…」

『まぁ、確かに…人魚は不幸の前触れとも言われますからね』

「「へーそうなんですか」」


若い漁師さんと声が重なって、思わず誤魔化し笑いを交わし合う。

薬売りさんはそれを見て、ピクリと眉を動かした。



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