第四章
└十
「はぁ……」
もう何度目だろう。
誰に届くでもない溜息は静まり返った部屋に溶けていく。
あまり陽の入らないこの部屋では、今が夕暮れなのか夜になっているのかすらわからない。
だいぶ自由の利くようになった体だけが、唯一の救いだ。
私は上半身を起き上がらせると、未だ眠ったままの市子さんを眺める。
「……本当、お人形さんみたい…」
陶器のように青白い肌。
閉じられた瞼からは綺麗に睫が並んでいる。
光の入らない窓は、外音すら聞こえない。
「あそこからは逃げられないし…」
さっき、窓から逃げられないかと思って近寄ってみた。
でも、外からしっかりと戸板を打ちつけられているようで、びくともしなかった。
玄関から出ようにも、きっと居間には藤次さんがいるし…
(…これじゃまるで市子さんも監禁されているみたい…)
そっと彼女の寝顔を覗き見て、私は再び力なく天井を仰いだ。
(薬売りさん…怒っているかな…)
…怒っていないはずがないよね。
あの時、薬売りさんは扇屋に戻るように私に言ったのに。
薬売りさんに寄り添ったあの女の人の笑顔が脳裏を過ぎる。
「………」
さっき、薬売りさんも言ってたな。
"言いつけを守らないからこうなるんだ"
…その通り過ぎて返す言葉もない。
「……ん??」
ちょっと待って。
薬売りさんは確かに、こう言った。
"言いつけを守らないからこうなるんだ"
「…もしかして…」
私はがばっと身を起こした。
(薬売りさん…私がここにいるって気づいてる…?)
"こうなるんだ"
私が今現在、危険に晒されてなければあんな表現はしないはず…
「……っ!」
ガラッ
「あ……!」
私が立ち上がると同時に、部屋の障子が勢いよく開かれた。
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