ひとりじょうず | ナノ




番外章(六)
   └二十



―――…………


「あーお腹いっぱい!」

「うん、いっぱいだねー」



桜の舞い散る川辺で、満腹になったお腹をさする。

ビャクは伸びをすると、そのまま横たわった。



「いい天気だね、ベニ」

「きもちいいよね」



温かい日差しは、心地よい微睡みを誘う。

俺達は無言のまま、川のせせらぎと満開の桜を眺めていた。




「…おれいろいろおもいだしてたんだ」

「ん?」

「ビャクにあったころのこと」

「あぁ…はは、奇遇だね」



俺達は顔を見合わすと、微笑みを交わす。


ビャクが俺を見つけたあの日から、ずっとずっとビャクは大事な仲間。

きっとこれからも。


俺は目を細めるビャクに、そっと鼻先を近づける。




「…………」



ぶちゅ。




「ぶっ!!!」

「えへへ〜」

「な、何するんだよ!?」



ビャクはガバッと飛び上がった。

そして俺を睨み付けて怒っている。




「????」

「ベニ、お前…!!」

「え?まねっこ」

「何の!?」

「さっきビャクが結にしてたじゃん」

「っ!?見てたのか!!!」

「え〜みえるにきまってるじゃ〜ん」



何をそんなに怒ってるのか、よくわからないけど。




「だって、だいじでだいすきなひとにはそうするんでしょ?」

「へ……」

「おれ、ビャクだいすきだもん」



ビャクはごしごしと拭いていた手を止めると、ぽかんと俺を見つめた。




「あのねぇ…こういうのは男同士でするもんじゃ…」

「???」

「………あぁぁぁ〜結の唇の余韻が……」




ビャクは顔を青くしたり赤くしたりしながら頭を抱え込むと、がくーっと項垂れる。

俺の頭の中にはますます"?"が浮かんだ。




「へんなビャクー」

「誰のせいだよ、もう!」

「でもねー、おれしってるんだよ?」

「………何が」



ぶすくれるビャクは、じろりと俺を睨んだ。




「ビャク、まえにいけのほとりでも、してたでしょ」

「ぶっ!!!」

「よあけまえにねちゃった結に。おれ、みてたよー」




わなわなと震えるビャクは、顔を真っ赤にして俺に飛びついた。

…俺、おっきいからびくともしないけど。




「ばっかじゃないの!?何でそういう場面ばっかり見てるんだよ!スケベ!!」

「いたたた!なんでー!おれ、となりにいただけなのにー!」

「ベニのくせに生意気!」



ぎゅううっ



「ぎゃんっ!ほっぺつねらないでよー!」

「こういうときだけ犬ぶるなよ!!」




二人でもみくちゃになって川原を転がっていると、ふとビャクが手を止めた。

そして「しっ」っと人差し指をたてる。




「…誰か来る」


(…ん?)




俺も風に混ざる匂いを感じて、動きを止めた。




(…あれ…?このにおい…?)




どこかで嗅いだことのある匂い。

注意深く鼻を利かせていると、ビャクがもう一度「しー」と言う。



そして

「…結界張るよ」

俺達は姿を隠した。



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