番外章(六)
└十七
結を見つけて薬売りの元から連れてきた後も、ビャクが纏う冷たい空気は消えなかった。
結がいなくなったときと比べたら、ちょっとだけ柔らかくなったけど…
時折見せる眼差しが、なんだか寂しそうに見えた。
「ビャク…なにかまってるの?」
崖の中腹にある洞穴が、今の俺達の寝床。
中では結が小さな寝息を立てていた。
ビャクは中に入る事無く、入り口に座り込んで遠くを見つめている。
声を掛けた俺をチラッと見ると、ビャクはまた遠い景色に視線を戻した。
「…ねぇ、ベニ」
「うん?」
「あいつ…薬売りは結を迎えに来るかな?」
「え……」
覗き込んだビャクの横顔は、怯えたうさぎみたいだ。
ギュウッと自分の膝を抱いたビャクの手には、結から貰った風車があった。
「もしも…薬売りが来て、僕がどうにかなることがあったら…」
「ビャク!なにいって…」
「ベニ、君は結達と一緒に行くんだ」
「…やだ!おれはビャクといる!」
「薬売りは…反応悪そうだな…でも結ならきっと…」
「ビャク!!」
大きな声を出した俺に、ビャクは人差し指を唇に当てた。
「ばか、結が起きちゃうじゃないか」
「あ…で、でも!」
ビャクは困ったように眉を下げて、小さく笑った。
そして俺の喉をこしょこしょと撫でる。
気持ちいい感触に思わず目を細めていると、そのままギュウッと抱きしめられた。
「…ビャク…?」
「ばかだな、もしもの話だよ」
「……………」
「ベニ、大きくなったね」
「ビャクだって…おっきくなったじゃん」
俺の言葉に、ハハッと声を上げて笑うとビャクは立ち上がった。
「…寝よう、きっと結もひとり寝じゃ寒いよ」
「うん…ねぇ、ビャク…」
ビャクは俺の言葉を遮るように、ニコッと笑った。
「そろそろ来る気がするんだ、あいつ」
「くすりうり?」
「うん、何となくね。僕にはわかるんだ」
そう言って俺の頭を撫でると、「来たら、教えて」と呟いた。
「全部終わったら、三人で新しい森に行こう。ずっと三人で暮らすんだ、いい案だろ?」
「うん…それがいいね」
ビャクはもう一度微笑むと、洞穴の中へと入っていった。
「……………」
ねぇ、ビャク。
俺は弱虫で、落ちこぼれで…ばかかもしれないけど。
でも、ビャクだってばかだよ。
(…ぜんぜん、じょうずにわらえてないじゃないか…)
…ばかだよ。
本当は、誰よりも寂しいくせに。
ひとりぼっちが怖いくせに。
「…結…僕は……」
俺もばかだけどさ。
「僕は…君の世界を…救えなかった……?」
ビャクだって、同じだよ。
寂しがり屋の癖に。
強がってるの、俺は知ってるんだから。
本当はビャクが薬売りを斬れない事だって、知ってる。
「ビャク!」
「ひとりでいい!!」
"君にあげる"
俺は知ってるんだから…
本当は、ビャクの方が必要としてるって。
"君の仲間にも、居場所にも僕がなってあげる"
ずっとずっと、俺は気付いてたんだ…
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