ひとりじょうず | ナノ




番外章(六)
   └十六



―その日は、ビャクとはしゃいで遊びすぎて、俺は完全に熟睡してた。

いつものように眠っていたはずのビャクが、夜中に居なくなっていたことにも気がつかなかった。



「ん……」



夜明け近くに、微かな物音を聞いてうっすらと瞼を開いた。



ガサッ


「…ビャク!?」



まだ明けない薄暗い中、佇んでいたのはビャクだった。


でも何だか様子がおかしい。

真っ青な顔に赤い瞳が痛々しいほど濡れている。



「どうしたの?ないてたの…?」

「…ベニ…結が…」

「結がどうかしたの?」

「……っく…」



ビャクはそのまま倒れ込む様に俺にしがみついた。




「う…っく…ひっく…」



毛並みに埋めた顔から、熱い吐息が漏れ聞こえる。


こんな風に泣くビャクを見るのは初めてで…

俺はいつもよりも小さく見えるビャクを包む様に、体を丸める事しか出来なかった。




それから間もなく俺達はあの日を迎えることになった。


結が、真っ赤に染まった朝…




「ビャク!結がいっちゃうよ!」




真っ赤に染まった結は、青い着物の男に連れられて家を離れようとしている。

何があったかわからないけど、このままじゃ結がいなくなってしまう。




(そしたら…ビャクがかなしむ…!)



せっかくまた逢えたのに。

あんなにビャクが嬉しそうに笑うのに。


今にも飛び出そうとする俺を止めたのは、ビャク本人だった。




「なんで…っ」

「いいんだよ、今は結がここを離れることが先だ」

「………っ!」

「…今は、ね」




もう、次の言葉が出てこなかった。


結と青い着物の男の後ろ姿を見つめるビャクから、冷たい空気。

それはあの日、俺の故郷であいつ等に見せたそれと同じで。





(あ……)



ゾクリとする、鬼の空気。



「さぁ、一旦僕達も帰ろう…旅の支度をするよ」



ビャクは俺の方を見て、ニッと笑う。

でもその瞳には、悪戯っ子のようないつものビャクの片鱗は薄く。


少し恐ろしくて…

それなのに、どこか怯える小さな子供みたいで。


不安にも似たもやもやを、払拭しきれなかった。




―それから俺達の結を探す旅は始まった。

ビャクは表面上はいつもと変わら無かったけど、どこか冷めていた。


でも、眠るときは相変わらず俺の毛並みに深く沈んで眠る。

その時だけは、元のビャクに戻ってた気がした。




(きっと、結にまたあえたらげんきになるはず…!)



俺の単純さは天性のもののようで。

また三人で一緒にいられる様になれば、元に戻るって信じてた。


でもそれだけじゃ無いって気付くのが、遅かった。


ビャクの心に開いた穴にも、結の身に起きた事も、何もわからないままただ結を探し続けたんだ。



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