ひとりじょうず | ナノ




番外章(六)
   └一



― 番外章・ぼくといっしょ ―


「ねぇ、ベニ。お腹すかない?」

「すいた!ビャク、なにがたべたい?おれ、にく!」




春の匂いのする風の中。

ビャクは俺の背中に掴まりながら、ぐるりを見渡す。




「んー川も近いし魚にしようよ」

「えー」

「ベニ、魚捕るの上手いじゃない。川で鮭を捕る熊みたいでカッコイイよ?」

「えぇ…へへ〜じゃあさかなにするよー」




ビャクは何故かクツクツと、堪えたような笑いを浮かべた。




「じゃあほら、降りよう」

「うん!」




俺たちは大きな川が流れる所に急降下した。

風に靡いて、ビャクと俺の耳元で蒼玉の曲玉が揺れる。


木々を縫うように川辺に降り立つと、そこには一面の桜が咲いていた。





「へぇ…山桜か」



俺の背中からゆっくりと降りると、ビャクは気持ちよさそうに伸びをした。

あまりに気持ちよさそうだから、俺も一緒にギュウッと体を伸ばす。




「まぁた犬ぶって…」



ビャクは呆れたように笑うと、俺の鼻先をくすぐった。




ザァッと暖かい風が吹いて、薄紅色の花弁が舞い上がる。

目を細めながらそれを眺めるビャクは、きっとあの日のことを思い出しているはず。


だって俺もそうだから。




あの日、桜の舞う森の奥深く。

ビャクが俺を拾ってくれた、暖かな日のこと。




―今日は、ちょっと思い出話。

苦手な漢字も、がんばって使ってみる。



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