最終章
└三
やたさんはそんな私を見て、再び優しい声で話しかける。
「…中、入ろ?」
「結ちゃん!?」
やたさんの声にやや遅れて、絹江さんの声が飛び込んできた。
入り口の方に目を向けると、大きなお腹を抱えた絹江さんが佇んでいた。
絹江さんは静かに私の方へ歩み寄ってくる。
きっとまた心配させてしまった。
今はお腹の赤ちゃんにも絹江さんにも大事な時なのに。
何とも言えない罪悪感に、鼓動が速まった。
「あ…き、絹江さ…」
ぱんっっ!!
「……っ!?」
頬に痛みが走って、私は絹江さんに平手打ちされたと少し遅れて気付いた。
呆然としながら彼女を見れば。
絹江さんは目にいっぱい涙を溜めて私を睨んでいる。
「…結ちゃんだって子供じゃないんだし」
震えた声で絹江さんが言う。
私は頬を押さえたまま彼女を見ていた。
「どこで誰といたってあなたの人生だもの、私が口を出すことじゃないわ…でも…っ」
絹江さんの瞳から席を切ったように涙が溢れ出してきた。
「でもっ!黙っていなくなるなんて…心配かけたまま消えてしまうなんて二度としないで!!」
「………っ」
「何でも我慢して…胸のうちに仕舞いこんで!そんな風に大人になるんじゃないの!」
「……ご、ごめ…っ」
絹江さんはそのまま私をギュウッと抱きしめた。
細いのに温かくて力強い腕に包まれて、私の目からもボロボロと涙が零れる。
「絹江さ…!ごめんなさ…!ひっく…ごめんなさい」
「本当に…馬鹿な子…!」
ぽんぽんっと背中をさすりながら、絹江さんが泣き笑いした。
私は絹江さんに甘えるようにしがみつく。
絹江さんはずっと私の背中をさすりながら、小さく呟いた。
「おかえり、結ちゃん…」
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