最終章
└一
― 一ノ幕 ―
窓辺の障子を開くと、まだ少し冷たい風が舞い込んできた。
同時に柔らかな日差しが差し込んで、私と薬売りさんを細く照らす。
『…………』
布団に横たわった薬売りさんは、何の反応も見せない。
青白い顔で、時折眉間に皺を寄せながらも、ゆっくりと呼吸はしていた。
「…薬売りさん…」
庄造さんと絹江さんが呼んでくれたお医者様は、胸の骨が折れているけど命に別状は無いと言っていた。
「いやぁ、驚きの回復力だなぁ。後は目を覚ませば大丈夫だよ」
何度目か診に来てくれた時、そう言って笑ってた。
でも、それももう数日前の事。
薬売りさんは未だ目を覚まさなくて…
私はもう何度目かわからない溜息を吐いて、手元の端布に視線を落とした。
扇屋に戻ってきてから、絹江さんにいらない端布を譲ってもらった。
眠る薬売りさんの傍での裁縫が、ここ数日の日課だ。
何かに集中していないと…一日がまるで終わりの無い時間に感じてしまって…
「………」
それでも、やっぱり心は落ち着かなくて…
彼の顔を眺めながら、私は今までの事を思い返していた。
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