ひとりじょうず | ナノ




第九章
   └十五



― 終幕 ―

ザンッ



「……っ!」

「結、だいじょうぶ?」



木々の葉を掻き分けながら、ベニちゃんが疾風のように駆け抜ける。

私はその背中に必死に捕まっていた。




「うん…っ平気…っ」



今まで経験したことの無いような速さで風が向かってきて、短く返事をするのが精一杯だ。

少しでも気を抜いてしまうと振り落とされてしまいそう。




(薬売りさん…白夜……!)



二人の名前を心で叫びながら、私はベニちゃんの背中にギュウッとしがみついた。





「……ちかい!ビャクのにおいとくすりうりのにおい!」



ベニちゃんの声にハッとして、私は少し顔を上げた。

と、同時に枝を飛び渡っていたベニちゃんが地面に降り立った。




「あ、ベニちゃん!あそこ…」



少し開けた所に、見覚えのある二人を見つける。

木漏れ日に反射して、白夜の左手に握られた刀がギラリと光った。




「…ビャクをとめなきゃ…!」

「ベニちゃん…」

「ひとをきったら…あっきになっちゃう!」

「あっき…悪鬼…?」



そして少し角度が変わった時。





「…薬売りさん!」



白夜の正面の木に、凭れるように佇む青い着物が目に入った。





―どくんっ




薬売りさん…

このままじゃ、斬られてしまう…


どうしよう…どうしたら…




―どくんっ




「ベニちゃん…このまま近くまで走り抜けて!」



頭の中では不安と焦りがぐるぐる回ってる。


でも…




「え!?それは結があぶないよ!」

「大丈夫だから!」

「結……」




色々考えるよりも、自分の体が、本能がどうしたらいいかわかってる。





「助けるから…薬売りさんも白夜も、助けるから!」




ベニちゃんはもう何も言わなかった。

そして私の言うとおり、姿勢を低くして二人の方へ走り寄る。


段々と青と白の着物が近づいてきた。

白夜は長刀を大きく振りかざし、今にも振り下ろそうとしている。





「…結!」




ベニちゃんが合図のように私を呼んだ。

私は一度、ギュッと彼の体に抱きつくと、しがみついていた手をパッと離した。





「やめてぇぇぇえええ!!!」



私が声を出した瞬間、白夜の肩がびくりと揺れた。

しかし、彼の手は止まる事無く……






ど……っ



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