第一章
└二
『……結?』
「………………」
聞こえなくなった返事に、薬売りはそっと衝立の向こうを覗いた。
結の瞼はすでに閉じられ、穏やかな寝息を立てている。
薬売りはゆっくりと布団から出ると、結の枕元に座った。
まだあどけなさの残る、その寝顔を見つめる。
『………………』
正直、迷いが無いわけではない。
この娘を連れてきてしまった事に。
これから先、自分と共に行動する事に。
(記憶…か)
いつか思い出すのだろうか。
自分と出会ったあの瞬間を。
目の前に広がっていた、あの惨状を。
自分の手を取った、あの日の気持ちを…
薬売りは結の顔を見つめながら、キュッと自分の手を握りしめた。
いつか、わかるのだろうか。
あの日、結を見て手を差し延べずにはいられなかった自分の気持ちが。
『………………』
握りしめていた手を解くと、薬売りはそっと結の頬を撫でた。
『ゆっくり休みなさい』
いまは何も恐れずに
ただ、ゆっくりと…
―小話・了―
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