ひとりじょうず | ナノ




第一章
   └十六




「それでは…お嬢さん。怖い思いをさせてすみませんでした」




小太郎さんが改めて私に詫びる。

私はゆるゆると頭を振ると、小太郎さんの手を取った。




「あ、あの…小太郎さん、諦めないでください」

「え?」

「珠子さんと小太郎さん、二人いるじゃないですか。…その、モノノ怪の血の繁栄とか…私にはよくわからないですけど…自分だけだなんて思い詰めないで下さい。上手く言えないけど…二人で血を守る事だって大事だって思うんです。…小太郎さんの気持ちを…大事にして下さい」





小太郎さんは少し目を見開くと、すぐにフッと笑った。


そして私の手をキュッと握り返すと、「ありがとう」と呟いた。








ゴンッ




「いった…!」





後頭部に痛みが走って振り返れば、薬売りさんが退魔の剣を私に向かって振り下ろしていた。





「な、何するんですか!」

『手が滑りました』




涙目になる私をちらりと睨むと、ふんっと鼻を鳴らして珠子さんの方へと行ってしまった。




「な、何なの…」



呟く私を見て、珠子さんが声を上げて笑う。





「ほら、小太郎。ふざけてないで手をお放し」

「え?ふざけてって…」





目をぱちくりさせる私を見て小太郎さんはクスクス笑いながら手を放した。


そして薬売りさんの方へ視線をむける。





「今回は相手が悪かった」

『……反省してない、と』




薬売りさんが退魔の剣に手を掛ける。





(え、ちょっと…!)




慌てる私に反して、小太郎さんは楽しそうに続けた。




「いや、これがそこらの町娘ならどうなっていたかと思ってね」

『………………』

「狙ったのがお嬢さんだったから…」

『…やはり刻まれたいか』





ちりんっ





薬売りさんが小太郎さんの向けて退魔の剣をかざした。




「小太郎!もうお止し!」


珠子さんの一声に、小太郎さんは少し拗ねた様な顔を見せると肩を竦めた。





「…お嬢さん」

「は、はい!」



珠子さんが私を見て目を細める。




「これから…色々な事があるかと思うが…」

「え…?」





そして妖艶な笑みを零して私の頬を撫でた。





「彼の傍にいれば間違いない…恐れ憂うな」

「彼…って…」







薬売りさん…??






思わず薬売りさんの方を見ると、ふと目が合った。





『……………』



相変わらずの無表情な薬売りさん。


本当、何を考えているのやら…




俄かにざわつく胸を抑えていると、ザァッと強い風が吹いた。






「わ…っ」





周りにあったもの…というより、周りの景色自体が竜巻のような風筋に舞い上がっていく。





「それでは」




珠子さんの声がして振り返ると、其処には二匹の狐がいた。






「こ…金色の狐と、白銀の狐…」



私の呟きに応えるように、一声高らかに鳴くと、二匹の狐は空へと駆け上がっていった。







「…あぁ!!」




ふわりと揺れる金色の狐の尾…





「きゅ…九本ある…」





空を指さしながら、へなへなと力が抜けていく私を薬売りさんが抱き留めた。




『九尾の狐…』

「九尾…?」

『…道理で偉そうな物言いを…』

「…は、はぁ…」




私達は夜空を駆ける流れ星のような二つの光をしばらく眺めていた。



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