第六章
└十二
「いー加減にしてくだ、さいっ!!」
ごちんっ!
「いだっ!!」
結の拳骨が男の頭に直撃した。
「ちょ…!痛いってば…」
涙目でヘラッと笑う黒髪の男。
結は肩で息をしながら赤くなった拳と、頭を抑える男を交互に見ていた。
『…お見事』
振りかざした退魔の剣をそのままに、目を丸くした薬売りが小さく呟く。
「へ…薬売りさんそれで殴ろうと…!?」
『…抜けませんからね、剣…』
「ちょ…何やに、それはひどいやんか…」
黒髪の男が薬売りに向き直った隙に、薬売りは結の腕を掴んで自分の方へと引き寄せた。
「わ…っ」
『…何やってるんです、全く…』
結を叱りつけながらも、薬売りはしっかりと彼女を背中に隠すと、男をジッと見つめた。
『……………ん?』
結が拳骨を食らわせた所をさする男を見て、薬売りは何かに気付く。
と、その時。
「おい!薬売り!!どうしたんだよ急に!てゆーか重いよ!この変な箱!!」
どたどたと音を立てながら、弥勒が階段を上がってきた。
そして襖が開いたままの部屋にドカッと薬箱を投げ置く。
「大体なんで俺がお前の荷物を………え?」
『…大事に扱え小童。それに変な箱とは…』
「あ…うぇ……な、なん…で!?」
弥勒は最初の勢いを失い、真っ青な顔をしている。
「み、弥勒くん…?」
「な、なんでここに…」
様子のおかしい弥勒を一同が見つめる。
弥勒は震える指で、黒髪の男を指した。
弥勒が指差す方につられるように薬売りと結の視線が動く。
「何でこんな所にいるんですか!八咫烏(やたがらす)様!!!」
「え…!!」
『…………』
男はふにゃんと笑うと、ひらひらと手を振った。
「おぉ弥勒、久しぶりだね〜元気やった?それより、人を指差すのはよくないで〜」
「そ、それどころじゃないっす…」
弥勒はがっくりと項垂れ、そんな彼等のやり取りを薬売りと結はぽかんと見ているしかなかった。
終幕に続く
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