ひとりじょうず | ナノ




第六章
   └三




「…じゃあ、お願いします」

「はい!承りました!本当悪かったねぇ、わざわざ来てもらって…絹江ちゃんにもよろしく伝えてね!」



私は酒屋に着くと、絹江さんに頼まれたお酒やらお醤油やらを注文した。

忙しそうにバタバタと走り回る酒屋の女将さんは、扇屋でいつも頼んでいるお酒の種類とかをしっかり覚えていてくれていて、難なくお使いは終了。


手拭で汗を拭う女将さんに頭を下げると、私は少しのんびりと元来た道を戻った。





「暑いなぁ…」



じんわりと額に浮かぶ汗。


ぱたぱたと手で仰ぐも、あまり意味は無く。

眩しい日差しに、私は目を細めた。





―ちりんっ



「…ん?」




聞き覚えのある鈴の音に、きょろきょろと辺りを見回す…が。

賑わう街の通りに、目ぼしいものはない。




ちりりんっ




再び可愛らしい音が足元で響いた。

ハッとして下を見ると…






「あれ…あぁ!天秤さ……っ」



思わず大きな声を出してしまい、私は急いで自分の口に手を当てた。


少し辺りを見回して、ゆらゆらと揺れる天秤さんに指を差し出すと、天秤さんはぴょこんっと飛び乗る。

私は道の端に避けて、こっそりと天秤さんに話しかけた。





「どうしたの?こんな所で…」



天秤さんは少しゆらゆらと揺れると、くるりと回って鈴を鳴らした。





「あ…もしかして…薬売りさん?」



ちりりんっ




私の言葉に天秤さんはぴょこんと跳ねた。




(薬売りさんってば…)



…一人歩きの防止策のためか、それとも得意の過保護か…


どちらにしろ私には嬉しくて。

自然と緩む口元を隠しながら、そっと天秤さんを撫でた。




「…さぁ、帰ろうか」


りんっ




囁くように天秤さんと言葉を交わすと、さっきより軽い足取りで扇屋へと向かった。







「…お嬢はん」

「…え…」



急に耳元で声がした気がして進めていた足を止めた。




「あ、あれ?」




でも、周りの人達は私の横を足早に過ぎていく。

私の後ろにも横にも、誰もいない。




(気のせいかな…?)




私は首を傾げながら再び歩き出した。




「お嬢はん、ちっとかり待ってくれよ」

「…っ!!」




今度はクスクスと笑いを堪えたような声。

思わず懐にもぐった天秤さんを着物越しにきゅっと握った。




(わ、私…じゃない、とか?)


「あはは!いやいや、君だよ君!」




びくっと肩を揺らしてきょろきょろする私を、耳元の声は続ける。




「ほれ、こっち。そこのお団子屋」

「え、えぇ…?」



声に導かれるまま少し先にあるお団子屋に視線を移した。





「………」



そこには…確かに一人、男の人が座ってお団子を頬張っている。



でも…何て言ったらいいんだろうか。

その人の纏っている空気が、何か違う。


行き交う街の人の中、彼だけが妙に浮き上がって見えるのだ。




「そがなに警戒せんで。怪しいものやないよ!って、じゅうぶん怪しいかね」




再び耳元で響いた声に、ハッと我に返る。

と、お団子屋の人は緩やかな笑顔を浮かべながら私に手招きしていた。

二ノ幕へ続く

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