第五章
└二
気だるそうに吐き出された煙が、青い空に消えていく。
「………あ、あの…」
『……………』
痛いほどの沈黙が居心地悪くてたまらない。
次の言葉を見つけられずにいると、薬売りさんが先に沈黙を破った。
『…前に言ったことを覚えてますか?』
「え…?」
『…今の結は、真っ白だと言う話です』
「は、はい…」
前に、薬売りさんに言われた。
今の結の心は、白い真綿で出来た空洞のようなものです。
必要以上にモノノ怪に狙われやすくなるでしょう
そして、私をまっすぐ見てこうとも言ってくれたのだ。
それでも結が私と一緒にいるというなら…
…私が全力で結を守ります
「……覚えて…ます…」
呟くように答える私に振り向かないまま、薬売りさんは再び煙を燻らせた。
『…そうですか。その上で、その相談なんですね』
フッと薬売りさんが笑う。
でも、それは決して楽しそうなものではなく……
「あ、あの、薬売りさ…」
『わかりました』
薬売りさんは吐き捨てるようにそう言うと、コンッと煙管を叩いた。
部屋に響く甲高い音に、びくんと体が揺れる。
そのまま薬売りさんはゆっくり立ち上がりながら振り返った。
「………!」
座ったまま固まる私を、冷たい瞳で見下ろす。
そして表情を変えないまま、唇を動かした。
『…好きにしなさい』
一言、そう言うと私の隣をすり抜けて部屋を出て行ってしまった。
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