番外章(三)
└八
「わ、私…お風呂もらってもいいですか?」
顔を上げられないまま問いかけると、絹江さんは手を止めてぽんっと私の頭を撫でた。
「そうね、そうしちゃいなさい!」
私の頭に掛かった手拭いを取らないままでいてくれた絹江さんに、また泣けてきた。
私は誤魔化すように上がり口を足早にあがった。
「………」
少しだけ振り返って覗き見た弥勒くんは、俯いたまま手拭いを握り締めていた。
(…ごめん…!)
掛ける言葉も見つけられないまま、私は足早に暖簾の影に隠れた。
「ほら…あんたもきちんと拭かなきゃ」
暖簾越しに絹江さんの優しい声が聞こえる。
「…俺…結に酷いことを…っ」
胸に刺さるような弥勒くんの悲しい声。
「バカね…私はね、結ちゃんと同じように弥勒くんの事だって、可愛いのよ?」
弥勒くんがしゃくり上げたのと同時に、私は浴場に足を進めた。
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