番外章(二)
└六
「…………」
自分の部屋に帰って布団に潜り込んでからも、私はなかなか寝付けなかった。
庄造は明日にはもうこの宿屋から行ってしまう…
「…別に…寂しくなんて…」
でも…本当はそんな事だけじゃない。
(何だろう…何かもやもやする…)
あのときの庄造…
何かいつもと違った…?
ううん、少なくとも"私の知っている庄造"とは、様子が違った。
(でも…庄造のすべてを知っているわけじゃないし…)
「……あぁもう!!」
私はガバッと起き上がって頭を抱えた。
知ってるとか、知らないとかそんなんじゃない。
過去がどうとかより、今の庄造が…
今現在の庄造が、私の目から見て何かが危うい。
(よく…思い出して…そう、包丁!)
懐から覗いていた包丁の柄。
何か書いてあったように思う。
もう擦れて薄くなって…
「草…?違う…そう…あ、荘太(そうた)!」
そして庄造の言葉。
"気に入った奴に煌びやかな呼び名を…"
「荘太は…月夜の本名…?」
"迷惑かけて悪いな"
「迷惑"かけて"…?"かけた"じゃ、無くて…?」
次の瞬間、私は弾かれたように部屋を飛び出した。
「あの…馬鹿っ!」
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