第四章
└三
(子供じゃない、ねぇ…)
腕の中で静かに寝息を立て始めた結を覗き見る。
まだあどけない、それでいて触れたら落ちそうなほどに危うい寝顔。
薬売りは抱える腕にそっと力を込めた。
今日の出来事がどんな風にこの娘に関係するか…
モノノ怪などに動揺するな
自分でどれだけ難しい注文をしているかはわかっている。
でも。
それでも、今、結を何者にも奪われる訳にはいかない。
例えそれがこの世のモノだろうとなかろうと。
実体を持たぬ魑魅魍魎だとしても。
(…血塗られた過去であろうと…)
結を、手放すわけにはいかない。
『…………』
いや…
手放せ、ない。
(子供じゃないんですから、なんて…)
『そんな事…私が一番わかってるんです、よ』
指に結の長い髪を絡めたまま、薬売りはその温もりに顔を埋める。
「…ん…」
くすぐったそうに、むにゃむにゃと口元を揺らす結。
薬売りはため息混じりの笑みを漏らすと、目を閉じて小さな体を抱きしめたまま眠った。
― 第四章・小話 了 ―
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