ひとりじょうず | ナノ




第一章
   └六




息を切らしてやっと薬売りさんに追いつくと、冷ややかな視線がさらに私を責める。



「はぁっ、はぁっ…くっ、薬売りさん、ごめ、なさ…!」


まだ整わない呼吸で謝るも、薬売りさんは何も答えてくれない。





「あ、あの…」


そっと薬売りさんの顔を伺うと、視線はさっきのお店に向けられていた。

無表情に近いその顔からは、彼が何を考えているか読み取れない。



ただ、その目元は何かを探っているようにも見えた。




(…どうしたんだろう?)





薬売りさんから目を離し、私もお店の方を見やる。





相変わらず賑やかな町並み。

店先に小太郎さんの姿は無いようだった。




(薬売りさんは小太郎さんが嫌いなのかな…?)




いつも冷静で感情がわかりにくい薬売りさん。

一方、にこにこと愛想の良い小太郎さん。





(うーーーーん…)




ぱしっ




「いたっ!」

『…この馬鹿者』





急に薬売りさんにおでこを叩かれて、ハッとする。

薬売りさんはブスッとしたまま私を見下ろしていた。




「あ、あのごめんなさい…」



さっきはぐれて叱られたばかりなのに…

自分でもバカさ加減にがっかりする。





『それ…』




薬売りさんは何も答えずに私の手元を指さした。




「あ…これ小太郎さんが…」




握っていた簪を見せると、紅玉がキラリと光った。







あなたと出逢えた記念に…





不意に小太郎さんの言葉が浮かんで、私は頬を熱くした。





(…歯の浮くような台詞…)





あれだけ綺麗な顔立ちだと、ああいう台詞が簡単に口にできてしまうものなのだろうか?

そういえば薬売りさんも、意地は悪いけど綺麗な顔をしていると思う。





(…て事は薬売りさんも、ああいった台詞を言ったりするのかな…?)





ぱしっ






「いたっ!」

『…何を頬を赤くしているのです』




再びおでこを叩いた薬売りさんが、呆れ顔で溜め息をついた。




「べ、別に赤くなんて…!おでこばっかり叩かないで下さい!」

『…小太郎にもらったと言いましたか?』





む、無視ですか…




「はい…記念に、と」




薬売りさんは、再び睨むように小太郎さんの店の方に目を向ける。





『…そいつは、面白い…』


そう言って、ニヤリと口を歪めた。





(こ…怖…)



薬売りさんは私の方に向き直ると、もう無表情に戻っていた。




『結、宿に戻りますよ』


そう言って、すたすたと歩き出す。



「あ、はい!」


私は簪を袂にしまうと小走りで薬売りさんを追いかけた。


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