鬼が豆鉄砲を喰らう

何やら今日は街が騒がしい。そんな事を思いながら、まゆは窓から離れたファミレスの席でケーキにフォークをぶっ刺した。
甘ったるいチョコレートのケーキに、飲み物は健康を意識して野菜ジュース。けどあんまり美味しくなかったので次はカルピスソーダを飲むつもりだ。こう言う時、ドリンクバーのあるファミレスだと助かる。


「お前それだけでいいのかよ?」

「いいけど?何で?」

「昼飯食ってねーって言ってたじゃん」

「ん、良いの良いの。あんまお腹空いてないし。糖分補給したかっただけだし」


自分の前に座りパフェをほじくるのは銀髪をゆらゆらと揺らした坂田銀時。糖分フェチで頭までわたあめの様な男だ。

ある程度パフェを食べ進めると、彼も外の騒がしさに気がついたのだろう。何だか今日は騒がしいな、などと首を伸ばして外を見ようとしている。
亀のようにぐぐっと伸ばす首につられて、自分もぐぐっと首を伸ばし窓の外を眺めてみた。
すると、ファミレスの向こうに映っていたのは黒服を着た男たちの姿。言わずもがな、真選組だ。その真選組隊士たちが何やら慌ただしく走り回っている。いや、何かを探している?
所詮彼らは武装警察。対テロ用の。だからきっと探している相手は攘夷浪士とかそんな輩なのだろう。

いっつもいっつも忙しそうでございますねぇ。

嫌味っぽい言葉が口をつきそうになり、慌ててそれを飲み込むと、心の中で復唱してみた。


「さーって、パフェも食ったし!そろそろ行くか!えーっと?何が必要なんだっけか?」

「んーとね。衣装ケースを3つとキッチンラックが欲しいの」

「んでキッチンラックを家で組み立てればオーケー?」

「オーケーオーケー。ごめんね銀時。こんな事頼んじゃって」

「構やしねーよ。引越しって言やぁ男手が必要なもんだ」

「うん」

「しっかり荷物持ちと組み立て作業員をやらせて貰いますんでご安心を」

「助かるわー」


引越しをして一ヶ月。色々足りないものを買い出しに銀時を連れ出した。流石に女一人で全てを持って帰る事なんて出来ない。きっと店には宅配サービスとかもあるのだろうが、引越ししたばかりで出来るだけ無駄使いは控えたい。そんな訳で親しい銀時にお願いをしたのだ。

彼との出会いもこれまた雑誌の取材だった。歌舞伎町の特集を組んだ時に知り合った。歌舞伎町の事はこの万事屋銀ちゃんに聞くほうが早い、と耳にしたからだ。
だからこの銀時だけでなく、神楽ちゃんとも新八くんとも知り合いだ。
そんでもって、この万事屋経由で色々な人間と知り合った。万事屋銀ちゃんの下のスナックお登勢のお登勢さんが言っていたが「あれは歌舞伎町の顔さね」ってセリフに納得する。
お陰で社会人になってからこの歌舞伎町に来たのだが、友達が沢山増えたもんだ。


「まゆー悪い、財布忘れたー」

「…」


いや、絶対意図して持ってこなかったんだろ。と思ったが無料で荷物持ち兼組立作業員をしてくれるんだ。これぐらいは仕方ないだろう。
ぐっと「ふざけんな」と言おうとしたセリフを飲み込むと、鞄の中から2千円取り出して店員に差し出した。
その間、へらへらっと悪びれた様子もない銀時が「ごちそーさま」と呑気な声を上げていた。






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