○と△と×
目の前のカレンダーには沢山の×。
その×だらけのカレンダーを睨めつけるように眺めると、私は今日と言う日にちにも油性のマジックペンででかでかと×をつけてやった。
『…決めたっ!!』
黒々としたでかい×。それに鼻息を荒くすると私は豪快にそのカレンダーを壁から引っペがしゴミ箱の中に叩き込んだ。
私が真選組の土方十四郎と付き合いだしたのは
2年前。付き合いだしたきっかけは仕事関係で一緒になったから、と言う説明が正しいだろう。
いや、だからと言って勘違いしないで欲しい。
私はあの野蛮な真選組隊士ではない。
私の仕事はライター。しかもしょっぼい小さな出版社のライターだ。そのしょっぼい会社が「真選組の特集を組む」とか言い出して私は野蛮が住まう巣窟に取材に行ったのだ。
そしてあの土方十四郎と出会い、なんだかんだでお付き合いするようになった。
付き合い始めこそ、週に何度も逢瀬を重ねたりしてラブラブなカップルだったが、それは一年ほどで崩れ去った。
「今日は仕事が忙しくて会えそうにない」「今週は忙しくて会えそうにない」「今月は忙しくて会えそうにない」
そんな言葉が1年過ぎたあたりから耳にタコな感じで言い渡された。
そして、2年目を少し過ぎた今日。私は決心をしたのだ。
携帯電話を解約し、新しいものを購入した。家も引き払い新しい賃貸に引っ越した。
そう、土方十四郎と決別すると決めたのだ。
冒頭で言っていた×。あれは十四郎から連絡があった日をチェックしていたものだ。
会えた日は○。メールだけなら△。一切何もなかったら×。
そしてほぼ一面が×で埋まったカレンダーが6枚にも渡った。
これはもう潮時だろう。
ビリっとダンボールを梱包していたガムテープを剥がして口を開けると、中から家財道具を取り出した。新しい家はオートロックの付いたセキュリティー万全なマンション。リビングもフローリングでそこそこ広さはあるし、寝室もある1LDKだ。一人暮らしには十分。
とにかく荷ほどきをしなくては、と引越しのダンボールを片っ端から開けて中身を出していく。すると、くるくるっと丸まった物が手に当たった。
買い直したカレンダーだ。
それを豪快に広げると、私はリビングの壁に思い切り画鋲をぶっ刺してそれを飾った。
『今日から×も△も○も気にしなくていいのね!!』
そう考えただけで、やけに心は清々しい。
何も書かれていない綺麗なカレンダーに、私は赤ペンの蓋をキュポンと外すと、でかでかとペンを走らせた。
祝・決別!!!
んふふ、と心底嬉しそうな声が口から漏れて、思わず自分でも驚いた。
結構自分も強かなのかなぁー、などと思いながら赤ペンをしまい込むと開梱作業に戻ったのだった。
・
→あとがき
[ 1/2 ][*prev] [next#]
[※]
[しおりを挟む]