土方と十四郎

まゆの仕事は小さな出版社のライターで、単身でどこかに乗り込んでは話を聞き記事にしていた。と、言っても時事問題などのライターではない。本当どうでもいいような下らない情報雑誌だ。
その関係で仲良くなった銀時とはいい友達で、彼の交友関係ともその流れで仲良くなった。
そして今日はその仲良くなった志村妙のお店に来ていた。実はタイミング良く雑誌のコーナーで歌舞伎町のおすすめキャバクラ特集をするのだ。流石かぶき町の顔の坂田銀時だ。いろんな人脈がある。
話によると吉原にも顔が効くそうなので今度吉原特集があったらお願いでもしてみようと思う。

「まゆさん、お久しぶり!」

「妙さん、今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ。…とは言っても何をすればいいのかしら?」

「あ、普通に接客してくださって構いませんよ。その様子を見させてもらって…んで最後にちょっとインタビューをさせて頂ければ」

「そーなの?それじゃ私のテーブルの近くに席を用意するからゆっくり見学していってね」

「ありがとうございます」

普段から年齢の割にしっかりしている子だな、とは思っていたが、こうして仕事をする場面を見るとつくづくそう思う。
まだ18歳だと言うのに貫禄というものがある。
そう思いながらまゆはノートPCを取り出すと彼女が指定した席に腰を下ろした。

出された冷たいウーロン茶を一口含んで店内の様子をPCに打ち込んでいく。ほどなくして店が開店したようで男性客が何人か入ってきた。
どうやら妙が指定した席は彼女の目の前の席だったらしい。通路を挟んで向かい側に彼女がいて接客を始めた。耳をすませば話している内容も微かに聞こえてきて何ともベストポジションだ。
そう思いながらまゆは広いテーブルに一人、黙々とPCにその場の情報などを打ち込んでいった。

傍から見たら不思議な客だろう。
男性ではなく女性。しかも女の子を付けるわけでもなく一人黙々とPCを叩き続けているのだ。もちろん妙の客も不思議そうに自分を見てきている。だが、そんな事お構いなし、と言うようにまゆは仕事に没頭した。

作業を開始して2時間ぐらい経った頃だろうか。今まで妙を指名していた客が席を立った。どうやら2時間の時間指定だったらしい。その間、特に話が尽きるわけではなく、ずっと楽しそうに話をしたり、話を聞いたりしていた妙は流石だと思う。そして入れ代わり立ち代わりその席には次の客が座りだした。
一人終わって速攻指名客がまた来るなんて凄いな。そう思って顔を上げた時だった、見知った顔が自分の目に飛び込んできたのだ。

「っ!」

「!!」

もちろん、相手も自分に気がついたようで目をこれでもかと大きくして見ている。そして聴き慣れた声で「まゆ」と言ったのだ。

「え?まゆ?……て、あれ?!本当だ!まゆちゃんだ!何してんのこんなところ!!」

彼の声に反応して声を荒らげたのは真選組局長の近藤。そして彼とは真選組副長土方だった。

近藤の言葉にまゆは一瞬気まずそうにしてしまった顔をにこりと変えると『仕事です』と返した。

「あら。もうバレちゃいました?」

そう言って間に入ってきたのは先ほどの客を見送って席に戻ってきた妙で、もちろん彼女は自分と土方が別れたのを知っている。どうやら気まずくならないように間に入ってくれたようだ。

「まゆさん今日はお仕事でいらしてるんですから邪魔しないようにしてくださいね」

「え?仕事って?」

「キャバ嬢特集の取材ですよ」

「ああ!なるほど!俺はてっきりキャバ嬢でも始めるのかと思ったよ!」

がはは!と笑いつつ近藤がチラリと土方の方を伺う。
まゆ、と名前を口にしてからぴくりとも動かない彼に近藤は苦笑を零すとソファーにゆったりと腰を下ろし、妙が作ってくれた水割りに口をつけた。

「ひ、久しぶりだな。まゆ」

「はい、お久しぶりです土方さん」

「…仕事の方は順調なのか?」

「えぇ。毎度毎度小さい仕事ですけど楽しんでやってますよ」

ボックス席。しかも通路を挟んで土方が話しかけてくる。それに嫌がるでもなく躊躇うわけでもなく、まゆは淡々と返事を返しやる。

「土方さんも毎度の事ながらお仕事忙しそうですね」

「え?」

「目の下に隈」

「……あぁ」

パチパチとキーボードから顔を上げず何かを打ち込んでいるので自分の顔なんか見てないと思いきや、ちゃんと見られていたようで、土方はそっと自分の目の下に手を当てると少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
もうこうして会話はしてくれないのか思っていた。だが、彼女はきちんと受け答えをしてくれている。正直呼び方が「十四郎」から「土方さん」に変わってしまったのは悲しいが、いま自分たちは恋人でも何でもない関係になってしまった。ならば仕方のないことかもしれない。

はいどうぞ、と近藤に続いて作ってもらった水割りに口をつける。ふと通路向こうの彼女を見れば、茶色い液体をストローでちゅうちゅうしていた。

「お前何飲んでんだ?」

「え?何ってお茶だけど?」

「飲まねぇの?」

「いや、だから仕事中なんだけど」

「別にいいじゃねぇか。こっち来いよ、一緒にボトル空けろ」

「いや空けろって。このボトル俺のなんだけど。別にまゆちゃん飲むのは構わねぇけど俺のだからね?そのセリフ俺が言うべきセリフだからね?」

「てか本当にいいから。酔っ払ったら文字打てないから」

断固として酒を拒否するまゆ。それに面白くなさそうに頬を膨らませると、土方は徐に自分のグラスを持って立ち上がった。
一体何をするのだろう?と近藤と妙が見ていると、スタスタスタと歩いていき彼女のとなりへと腰を下ろしたのだ。

「ちょっ、土方さん!まゆさんは仕事中でっ!」

そう言って妙が土方の行動を制しようとしたが、ぐいぐいと妙の着物の袖を近藤が引っ張り、逆に彼女の行動を制してきた。その事に若干キレそうな顔で振り返ると近藤が申し訳なさそうに頭を下げてきたのだ。

「お妙さん、今日だけ見逃してやっちゃーくれねぇか?」

「は?何言ってるんですか?だってあの二人別れたんでしょ?」

「いや、そうなんだけどよ…トシの方はまだ未練タラタラてーか」

「……………まぁ、そうでしょうね」

そう言うと、小さく溜息をついて妙はソファーに腰を下ろした。
彼女が一方的に土方と別れたのは知っている。けれどもそれは仕方がない事だと思った。今までの土方のしてきた事…いや、何もしてこなかった事を考えれば自分だって彼女に「あんな男とは直ぐに別れなさい」と言うだろう。
けれども…
じっと見つめる向かいの席には未だに未練タラタラの熱い眼差しで彼女を見る土方の姿。

「………そんな顔するぐらいなら、何が何でも手放さなきゃいいのに」

馬鹿な人。そう言って土方を連れ戻す事を諦めた。




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