目が覚めると、そこは一面真っ白でやけに心地の良い場所だった。
だが、心地が良いだけであって、目の前には恐ろしい程の怒り顔の狐面があった。
『………おはよう』
「……だ」
『………なんか怒ってんの?』
「分かるのだ?」
『そりゃそんだけ眉間に皺寄せてりゃーなぁ』
「だ」
肯定するように低く単音だけ口にすると、井宿は寝ている彼女の寝台に腰掛けた。そしてゆっくりと布団の中にあった手を引っ張り出してくるとその手をぎゅっと握ったのだ。
「こんな綺麗な手だというのに、さっきは真っ赤に染まっていたのだ」
『あぁ、そういやあいつの攻撃が当たったな…けどな井宿。私は人間じゃないからそう簡単には死なな…』
「そういう事を言ってるんじゃないのだ!!」
『っ、』
「っ、君の、体ももちろんなのだ。けど、オイラの気持ちも…考えて欲しいのだ」
『ち、ちりの、気持ち?』
「君が倒れて…オイラの心臓も止まったのだ」
『ええ?!』
まさかな発言に真優が勢いよく寝台から飛び起きると、ペタペタと井宿の狐面に触れ怪我がないかの確認をした。
『だ、大丈夫なのか?!心臓が止まったって!お前は人間なんだぞ?!心臓が止まったって言ったらお前っ、』
「……そういう意味では…」
『は?!じゃぁどういう意味だよ!?』
「けど……わかったのだ?」
『何が?!』
そう言うと、井宿は握っていた手を自分の胸へと押し付けてきた。
「オイラが死んだって聞いて、君は今物凄い慌てたのだ。それこそ、心臓が止まるんじゃないかと言う程慌てたのだ?」
『え?………まさか』
「オイラの心臓が止まったというのは言葉のあやなのだ。けど、その気持ち分かったのだ?」
『……井宿っ、』
にっこりと狐目をこれでもかと細くすると、ほらといって更に彼女の手を自分の心臓へと押し付けてきた。
「だからもうこれ以上オイラの心臓を止めないで欲しいのだ」
『………悪かったよ、井宿』
「分かればいいのだ」
自分の手を握る一回り大きな手は優男面とは違って、ゴツゴツとした男の手だった。
そして触れる胸板はとても厚い。
真優は申し訳なさそうに眉を下げると、けど、お前が無事で良かったよ。と告げた。
「さっきは助けてくれてありがとうございました!私、朱雀の巫女の夕城美朱です!」
『ああ、私は真優だ』
井宿と一緒に広間へと行けば、そこには美朱が待ってました!と言わんばかりに自己紹介をしてきた。
先ほどどさくさに紛れて挨拶を済ませた鬼宿も助かった、と言って握手を求めてきた。
出された手を素直に受け取り握手を交わして、ふと真優が不思議そうに
2人をみた。
『……お前らは知らないのか?』
「え?何が?」
『私が………いや、何でもない』
この2人の態度から察するに、自分を黄龍だと知らないのだろう。そう思い確認の為、井宿の方へとむけば、肯定するように優しく微笑んでいた。
「さて、自己紹介も済んだし!紅南国に帰ろう!真優さんも一緒に!」
『は?私も一緒に?』
「そう!聞けば真優さんも私と同じ世界の人なんでしょ?!なら私たちと一緒に行こう?旅は道連れ世は情けっていうでしょ?同じ世界の者同士一緒の方が心強いだろうし!ね?」
『………』
自分は黄龍で、その役目は朱雀や青龍を召喚してから。なので今自分がやらなきゃいけない事は何もない。
むしろ、どちらかのについて行った方が情勢がわかるだろう。
だが、どちらかといっても青龍側は自分とは相対す物を崇めているので近づけない。
なら、この巫女の言う通り、今は朱雀側について行ったほうがいいのかもしれない。
「真優、君さえよければ一緒に来て欲しいのだ」
『………わかった』
自分の最後の気持ちを決めたのは井宿だった。
ごちゃごちゃ考えていた気持ちを振り払い、彼の一言ですんなりとOKが出た。
少しでも一緒にいた時間があったせいだろうか?
そう思いながら、真優は太一君へと顔を向けると『行ってくる』と短く伝えた。
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