じゃらっと重たそうな音を立てる袋の中には沢山の金。それを楽しそうに鳴らしながら、真優は特大饅頭にかぶりついた。中から染み出る肉汁がなんとも堪らない。
満足そうに大口を開けて食べている姿に、見ているだけでこっちも満足になってしまいそうだ。


『ん〜、んまい!』

「それは良かったのだ」


パクパクとすごい速さで口に収まる饅頭を眺めながら、井宿もそれに齧り付く。流石行列を並んで買っただけの事はあり、結構美味しい。
井宿も二口三口と豪快に口に頬張るとその肉汁に舌鼓みを打った。


『あ、そうそう。今日は井宿にご報告があります』

「だ?」

『私ちょっと元の世界に帰るわ』

「そうなのだ、分かったのだ。くれぐれも気を付けて……………え?」

『ん?どうした?饅頭でも喉に詰まったか?』


ぴくりとも動かなくなってしまった井宿に、真優が目の前で手を振ってみる。
すると物凄い速さでその手を掴まれてしまった。


「ど、どういう事なのだ?!帰るって…どうやって!!」

『どうやってって、こっちに来た時みたいに』

「だ?!だ?!だ?!」

『こっちとそっちの行き来は簡単なんだよ』


あっけらかんとそう言う真優に井宿の目が丸くなる。
そんな簡単に行けるところなのだろうか?仮にも自分には無理だ。いや、自分だけでなく他の人間にも無理だろう。それはきっと天帝でもある太一君でもおいそれと異世界に行くこと何かできないと思う。

だが、目の前の黄龍はヘラヘラと笑いながら簡単だと言ってのけたのだ。


「そ、そもそも帰ってどうするつもりなのだ?!真優は向こうからこちらに帰ってきたんじゃないのだ?!」

『いや、そうなんだけどよ…人間慣れ親しんだ生活からは抜けれないってもんでさ…』


ふっと哀愁漂う雰囲気を醸し出し、目を伏せる。
その表情は寂しげで井宿の心が何故だかもやっとした。

誰かが、待っている…漠然とそう思ってしまった。
きっと大切な人でも向こうの世界においてきてしまったんだ。その人に会いに行きたいんだ、と理由もなくそう思った。

いや、理由がないわけじゃない。
きっとあの時…あの一緒に風呂を入った時に、もしかしたら彼女は結婚でもしてるんじゃないか、と言う自分の勝手な想像が無意識に今の考えを導いたのだろう。

もやっと霧でも掛かったかの様な自分の心に、自分自身動揺する。
すると、そんな事を知ってか知らずか、真優が『あいつがなきゃ…生きてけないんだよ』と呟いた。

生きていけない、とはかなり大袈裟な言い分だ。だが、そう感じるほど彼女の中ではその相手はでかい存在なのだろう。

生きていけない、と嘆く彼女にどう言葉をかけていいかわからず、押し黙ってしまった井宿。
そんな彼を横目に、真優はポケットからタバコを取り出すとゆっくりと味わうようにそれに火をつけ煙を肺へと入れた。

もやっとした心と同じように、目の前に霧が掛かったかの様な煙が広がった。





[ 1/4 ]

[*prev] [next#]
[]
[しおりを挟む]





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -