歩いて歩いて休憩してまた歩いて。
一体これで何日目なのだろう。まだ両手の指で足りるぐらいなのだろうが、こんな生活をした事のない黄龍は肩を落とし、ついでに両手もダラリと下に垂らしながら歩いていた。


『妖狐ォ〜妖狐ォ〜疲れたぁ〜』

「…分かりましたのだ、少し休憩でもしますのだ?」

『お〜……』


川の傍に大きな木を見つけ、その木陰に腰を下ろすと浮腫んだ足を摩りながら疲労感たっぶりの息をつく。

ちなみに彼女の格好はこの世界に来た当時の服装をしている。要は異世界の服装だ。
太ももまで露わになっている短い丈のパンツにチューブトップと軽くカーディガン。
そんな肌色の多い服装に井宿は最初こそ目のやり場に困ったがもはや慣れた。それに自分は僧侶、それぐらいで狼狽えれない。

とにかく、暫く休んで彼女のご機嫌を取ったらまた動くか、と思っているとカチリと言う音が耳に入り、白い煙が視界に入り込んできた。


「だ?それは何なのだ?」

『あ?煙草だ煙草』

「煙草?あぁ、煙管に入れる刻みたばこみたいな物なのですだ?」

『そうそう、その進化系』

「ほー」

『手ぶらでこっちに来ちまったから…ポケットに入ってたこの一箱しかないんだよ。貴重な煙草でおいそれと吸えねーんだ』


そう言って器用に煙で輪っかを作って飛ばしていく。まるで術でも使って輪っかを作っている様なその綺麗な輪っかに井宿は感心するように目で追う。
そんな子供の様な反応の井宿に黄龍が可笑しそうに笑いを噛み締める。


『おい妖狐』

「だ?」

『腹が減った』

「…だι」


確かに今朝から何も食べてはいない。井宿はよし、と腰をあげると釣り竿を笠の中から取り出し川へと向かっていった。その背中に黄龍がむっと口を尖らす。


『おい何をしている』

「何って、魚を調達しようと…」

『私は今、腹が減ったと言ったんだ』

「で、ですから、魚を…」

『だから今腹が減ってんだよ!!魚を釣るだ!?それは何時だ?!一秒後には食えるのか?!5秒後か?!1分後か?!それとも1時間後か?!ふざけんなよ?!私は今といったんだ!!』

「む、無茶ですのだ!釣りとは何時釣れるか分からないから…!」

『使えん奴だな!何のためにオメーがいんだよ!!』

「……決して食料調達のためじゃないのだ」

『何か言ったか?!』

「……いえ、何も…ですのだ」


こんな事が毎度毎度。
この我が儘暴君に井宿のストレスは限界だ。このままでは本当に禿げてしまいそうだ。
しかし、相手は神獣。歯向かうわけにも…そう思っていると『おい』と声がかかった。
それに今度はなんなんだ?と振り返れば
顔面に何かがごすっと当たった。


「だ?!」

『食え。桃じゃないか?』

「え?」


顔面に当たったもの。それは桃で、見れば黄龍が木に登り桃にかぶりついている。どうやら腰をおろした木は桃の木だったらしい。枝の間に隠れる様に4つなっていた桃の2つを食べると、残りの2つは井宿の袈裟に包んで後で食べる事にした。











『妖狐……そろそろ』

「ダメですのだ。出来れば今日のうちに此処を過ぎてしまわないと」

『うえェ〜…』


桃を食べ、少し体力が回復したが、そんなもんは微々たるもので…。
歩いてすぐさま根を上げだした黄龍に井宿は少しキツく当たると足を緩めず突き進んだ。

今日のうちに、と言うのも分かる。どうやらここら辺の治安は良くないらしい。
山賊なのか盗賊なのか、それとも敵国の仕業なのかは分からないが何者かに攻撃を受けた跡が残り、家を壊された村人たちがそこら辺に屯している。

沢山の人間が死んだのだろう。空気も淀み、邪気が地を覆い尽くしているようだ。
確かに、いい場所ではないな。と黄龍は横目でそれを見ながら足を進めて行くと、目の前を歩く井宿の足がぴたりと止まった。

自分で早く此処を抜けようと言っておきながら、何故止まるんだ?と彼の背中から前をのぞき見れば、行く手に小さな子供2人が蹲っていた。


『おい妖狐』

「どうしたのだ?」


黄龍の呼びかけに応えず、子供らに声を掛ける井宿。すると子供らが掠れる様な声で「お腹が空いた」と訴えてきた。
薄汚れた格好で、見るからに痩せほそろえている。悲壮感たっぷりだ。

井宿は分かったのだ、と言うと背中に背負っていた袈裟の中から残りの桃を2つ取り出した。
そしてそれを差し出したのだ。

井宿の行為に目を輝かせ、生唾を飲みこむ子供。そしてゆっくりと、遠慮しながらその小さな手が桃へと伸びた。




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