風邪に一番効くのは?






温暖化の秋は何処へやら。
日本は四季のある素晴らしい国、と思っていたのは随分昔の様だ。
温暖化の影響かは知らないが秋など微塵も感じさせる事なく夏から冬へと移って行った四季。
つい先日まで半袖だったと言うのに、今じゃ長袖一枚でも、うすら寒い。

そんな気候の変化に耐えきれず、風邪をこじらすのも珍しくはないが、屯所では珍しい人物が風邪をこじらせていた。


『しょぼ。マヨネーズは抵抗力付くんじゃなかったの?味覚音痴さん』

「うるせーよ、耳元で喚くな、頭に響く」

『ひーじーかーたーさーん!!!元気の源マヨネーズ啜りますかー??』

「だから喚くなっていってん・・・・ぐあ〜・・・ダメだ。ぐわんぐわんする」


そう、気候の変化に付いていけず風邪を引いたのは俺。しかし、俺の場合は数日に及ぶ徹夜での書類整理が原因かと思われるが、まゆからしてみればそれは要領が悪いだけらしく大丈夫ですか?の気遣いの言葉もない。
上司を敬うって気持ちは微塵も無いらしい。


『も〜、どうせ高熱出して倒れるなら仕事全部終えてから死んでくださいね?後始末が大変なんだから』

「風邪で死ぬかよ」

『・・・風邪薬と見せかけて毒飲ますとか?したら死ぬよね?』

「頼むから目を輝かせて言うの止めろ」

『大丈夫!今月の予算は結構余ってるから葬式代も経費で落とせるよ!』

「もう本当ちょっと黙って。つかよ、良く予算余ったな、いつもカツカツで回してたってーのに・・・」

『あ、どれだけ予算が浮いたか気になる?一応ね、かなり上等な葬儀が出来るぐらい・・』

「そこは全く興味ねーよ。なんで葬儀に例えてんだよ。お前本当ムカつくな」

『頑張って予算浮かせた人間に何言ってんのよ。そもそも何で今までカツカツだったのかなんて一目瞭然じゃん』

「そうなのか?」

『そうだよ、誰かさんがストーカーまがいの行為を経費で出すわ誰かさんがキャバクラ経費で行きまくるわ誰かさんが自分の好物を大量に経費で買うわ誰かさんが特殊な趣味をインターネットで経費で買うわ誰かさんが勝手に経費で運動上貸し切ってミントンの練習試合するわ』

「・・・息つぎ出来てんのか?」

『もう今までの勘定方の人は一体何やってたのよって思うぐらい酷かったんだよ!?つーか勘定方っていうかこんな個人的金銭を経費で落とそうとする輩が信じらんない』

「ったく、しょうがねー奴らだな」

『オメ―もだよマヨネーズ馬鹿』

「オメー言うな」


とっつぁんに喧嘩を売ったのは先日、それから何事も無かったかのように日にちが過ぎている。
特に警察庁から何を言われる訳でもなく、滞りなく真撰組正式隊士としての手続きもすんだ。
まぁ、当たり前のことだが、九十九まゆは命を狙われているため加藤まゆとしての手続きだった。

不思議なのはあの我儘ブラコン女が真撰組に居ついた、という事実。
警察庁では色々あるのだろうが、男嫌いの彼女がそれでも真撰組にいると言う事実が不思議だ。
そもそも兄貴の所に帰りたくて俺や近藤さんを殺そうとまでしたと言うのに・・
つーかまだ俺を殺そうとしてるが、何でかはよく分かんねー。兄貴の所に帰らねーって決めたんなら俺を殺す必要なくね?
なに?あれは単なる憂さばらしなの?総悟と同じなの?


釈然としない気持ちを抱きながら布団の中で寝ていた身体を少し起こして煙草と灰皿を手繰り寄せれば俺の手と煙草の間にダン!とスタンガンが落ちてきた。
そしてバチバチと畳みを焦げさせる。


『何具合悪いのに煙草吸おうとしてんの、馬鹿』

「・・・・別に良いじゃねーか煙草ぐれー」

『具合が悪いからスタンガンはいけないと思って畳をスパークさせたけど、そうか、生身にスパークしてほしんだ?やだー仏心出しちゃった★じゃぁお言葉に甘えて・・』

「待て待て待て!!分かった!悪かった!俺が悪かった!!!」

『分かればよろしい』


怖ぇ・・・・。
頼むから威嚇でバチバチスタンガン鳴らすの止めてくれ。頭に響くι

せめてコイツが部屋から出て行くまで大人しくしているか。と思っていると俺の部屋の襖が勢いよく開いた。
襖を開けたのは近藤さん、何か手にスーパーの袋をもってる。


「トシ!薬とポカリとか買ってきたぞ!!大丈夫か?」

「あぁ、わりーな近藤さん」

「なに、構わんさ!俺の分の仕事もしてもらってるんだし!これぐらいは」


そう言って近藤さんが袋の中から取り出したのは小さな箱。そのパッケージには「解熱剤」と書かれていた。
そう言えば熱が高かったんだ、俺は折角買ってきてもらった薬を飲もうと上半身を起こしたが、それを「動いちゃダメだよ」と制されてしまった。


「あ?それ薬なんだろ?寝っ転がったままじゃ・・・」

「あ、違う違う、これは寝っ転がってくれなきゃ出来ないから」


そう言って俺の上に掛かっていた布団を剥ぐと満面の笑みで「さ、座薬さそうか!」と言ってきたのだ。


「は・・・・はァァァァァァ!!??ざ、座薬?!」

「そうだぞ?解熱剤ってーのは飲むタイプより座薬の方が一番効くって薬局の人が言ってた。ほらトシ、お尻出して」

「いやいやいやいやいやいや!!!!無理だから!!なんか色々無理だから!!!」

「我儘いわない!!早く良くなって欲しいんだよ」

「だからって座薬はねェだろ?!つーかもう諦めて座薬しかないとしても自分で出来るわ!!!」


俺の着流しの帯に手を掛け、あまつさえパンツにも手を掛けようとする近藤さん。必死に抵抗する視界の脇で、ものっそい軽蔑の目を向けているまゆがチラリと見え、なんかもう本当に死んでも良いかもしれないと思ってしまった。




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