加藤兄弟





ある日、真撰組は困った事になっていた。
真撰組の金を管理する勘定方が全員いなくなってしまったのだ。
その理由は様々、一応勘定方といっても此処真撰組の勘定方は刀も握る、故に攘夷浪士に斬られてしまった者。局中法度に違反して組の金を使い介錯された者。勘定は出来るが腕がからっきしダメで解雇された者。
そんな様々な理由で今、この真撰組には一人の勘定方もいないのだ。
流石にこれではいけないと思った近藤が急遽、警察庁の松平に警察庁から一人勘定方を貸してくれと泣きついた。
その条件は、金の勘定の出来る者、そして剣術をたしなんでいる者、その2つだった。

そんな訳で本日、警察庁から真撰組に新しい勘定方がやってきた。
まぁ、やってきた。と言ってもその人間は警察庁からのレンタル品になるのだが、真撰組の勘定方に新しい人材が入るまでその者は真撰組に籍を置くこととなる。








「どうもはじめまして、俺は警察庁特別研究所主任、加藤清雅です!今回は松平様に言われ、真撰組の新しい勘定方を連れてきました」


そう言ってきたのはオレンジ色の髪の男、女かと思うほど愛らしい顔つきをし、黒ブチ眼鏡を掛けている。そしてものっそい華奢な体つきだ。
その挨拶に加藤の前に座っていた近藤と土方の顔色が若干悪くなる。
別に加藤を見て顔色を悪くしたのではない、ならば何故、2人は顔色を悪くしたかというとその加藤という男の隣に座っていた者のせいだろう。


「・・えっと、加藤殿ですね、えっと、その、今日はわざわざお越しいただきましてありがとうございます」

「いえいえ、これも俺の仕事ですからお気になさらず」

「して・・・先程から気になっていたんですが・・こちらの・・・方が?」

「はい!今日より真撰組に配属になる加藤まゆ。俺の妹です」

「「やっぱりかァァァァァァ!!!!」」


そう、近藤と土方の顔色が悪かったのは今紹介された加藤まゆのせいだったのだ。


「え?え?え?!か、加藤殿!?何かの間違いじゃないですか?!こ、この子女の子ですよね?!」

「え?間違いなく女の子ですが?」

「女の子ですが。じゃねェーよ!!アンタ知らねーのかよ?!真撰組は女人禁制だ!!」

「そうなんですか?けど松平様からはまゆを連れて行けと指示が出ています。それに松平様に出された条件の中に男性必須と言う事は書かれていなかったとか・・・」

「けどアンタも警察庁の人間なら真撰組が男だけで結成されてる事知らねー訳じゃねェだろ?!」


ダン、と机を叩く土方。その衝撃で出された湯呑の中の茶がチャプンと跳ねた。
少し零れた茶、それに気がついた女が顔を伏せながらポケットからハンカチを取り出し無言でソレを拭く。
自分が零した茶だと言うのに何も言わずその後処理をする女に土方は少々罰が悪そうに顔をしかめた。


「落ち着いて下さい副長さん。そりゃ俺だって真撰組が男のみで構成されているのは知っていますよ。だからもちろん反対はしました。」

「反対したの?」

「当たり前じゃないですか・・・ですが」


そう言うと加藤はふぅ、と小さな溜息を1つ吐いて近藤の顔を見た。


「申し訳ないですが今、警察庁で剣術、または体術を得意とした勘定方はいないんです。基本警察庁の勘定方などのデスクワークはそんな物を必要としませんから、専門職の知識さえあれば良いんです」

「え゛、マジ?」

「マジですよ、なので妹は勘定方ではなく俺と同じ特別研究所の人間なんですよ。けどご安心ください、大方の事は出来ますし、もちろん腕も確かです」


ニッコリと自信満々に微笑む加藤、その横で女は未だ顔を上げず俯いたまま話を聞いていた。
先程から一言も言葉を発さない女。
それに近藤も土方もどうしたものかと首を項垂れた。


「兎に角、今警察庁の方でお貸し出来るのは妹ぐらいなんですよ、だから申し訳ないですが真撰組の方で新しい勘定方が見つかるまでこの子で勘弁して下さい」


やっと出された茶に手を付けてきっぱりと言った加藤。

本当ならば剣術の腕は無くとも男の方が良い、しかし、それで万が一何かあって攘夷浪士らに斬られた場合、問題になる事は必須。
警察庁の方でも色々考慮してこの女を出してきたのだろう、これも新しい勘定方が見つかるまで、と無理やり納得して近藤と土方が首を縦に振った。


その時だった。


『嫌だぁぁぁぁぁ!!!』


今まで一言も言葉を発しなかった女が口を開いたのだ、いや、口を開いたと言うか叫んだ。


『やだやだやだやだやだ!!!絶対ヤダ!!まゆ絶対ヤダぁぁぁ!!お兄ちゃんと一緒じゃなきゃやだぁぁぁぁ!!!!!』


バッと上げた顔。
その顔に思わず近藤も土方も目を丸くした。
今まで俯いていてキチンと見えていなかった顔の作り、ソレは驚くほど容姿端麗な作りをしていた。
街中でこの子が歩いていたならば5人中4人は絶対振り返るだろうと言うほどの可愛さ。
その容姿に思わずポカンと口を開けて女を見ていると更にまゆは言葉を繋げた。


『なんで?!なんでOKなんか出しちゃうのよ!!私はあんた達がNGを出すと思ったから此処に来たのに!!なんで?!女はダメなんでしょ?!』

「あ、いや・・その、確かに女の子は・・」

『ならなんで首縦に振っちゃうのよォ!!まゆはお兄ちゃんと一緒が良いの!!お兄ちゃんと一緒の職場が良いの!!お兄ちゃんと一緒じゃないと舌噛んで死んでやるんだから!!』

「ええェェェェ!!!???」


ワンワンと泣きながら机に顔を突っ伏すまゆ、それに隣にいた兄、事、加藤は又か・・・と言うように苦笑するとまゆの頭をポンポンと叩いた。





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