見回りパニック
秋
いや、秋と言っても温暖化の激しい昨今の秋は夏の様だ。
未だ肌をじりじりと刺す様な日差しに近藤は目を細めると額に手をかざして眼前を確認した。
確認した先には一人の女。
言わずもがな、志村妙だ。
彼女の姿を見つけた途端、足の指先にまで力が入る、そしてその力んだ足で地面を蹴りあげると猛スピードで「お妙さァァァァァァァん!!!!!」と叫び突進して行ったのだった。
『どうしたの?その汚いゴリラ。不燃物?』
屯所の玄関に転がっている物体を見てまゆが顔をしかめる。
「いや、燃えた結果だ」
『焼いてもゴリラはゴリラなんだ。そうだよね、西ローランドのゴリラの正式名所ってゴリラ・ゴリラ・ゴリラなんだよね。何処までいってもゴリラなんだよね』
「これは日本産ゴリラ」
毎日恒例の回収作業、普段は山崎を向かわせているが今日は監察の仕事が入っていたため土方が回収に向かっていた。
道で血まみれで倒れている近藤を回収して屯所の玄関まで運べば、そこを彼女に見られてしまった。
『と言うか、コレ生きてんの?死んでんの?どうする?コレ剥製にする?剥製の仕方しってる?まずは皮を引ん剥いて・・』
「何を教えようとしてんだよ!?剥製になんかする訳ねェだろ!!まだ生きてんよ!!!」
『なんだ、残念』
ちぇっ、と言ってクスクス笑うまゆ。
彼女の場合、沖田と同じで何処までが本気かイマイチ分からない。
どっちかと言うとガチで本気な気がしてならない土方は今後何があっても近藤さんの回収は彼女にはやらせないでおこうと心に誓った。
血だるまになった近藤をそのまま引きずり局長室に放り込む、暫くすれば目が覚めるだろう、と局長室の襖を閉めながら煙草に火を付ければ、後をついて来ていたのだろう、まゆが廊下に立っていた。
「?なんだ?」
『聞きたい事があるの』
「だからなんだ?」
『見廻り表なんだけどね』
そう言うとまゆは今日の見廻り体勢の書かれた用紙を取り出した。
そしてトントンと人差し指で一か所を指す。
『何でまゆの名前が書いてるの?』
「は?そりゃ見廻りするからに決まってんだろ」
『誰が?』
「オメーが」
『まゆが?』
「そう、オメ―が」
何言ってんだ、と細く紫煙を吐き捨てれば、困ったように眉を寄せて上目遣いで見上げてきた。
ちょっとその行動にドキッとする。
『そんなの・・・まゆ、無理』
ウルウルと瞳に涙を浮かべて懇願する。
何とも巧い女だ。
本当に自分が可愛く見えるツボを分かっている。
コイツがブリっ子をする時は決まっている。なのに先程ちょっとでもこの上目遣いにドキッとした自分が馬鹿みたいだ、と思いながら土方はワザとらしくまゆの顔面に大量の紫煙を吹きつけた。
『ゲホっ!な、なにすっ』
「勘定方でも見廻りはすんだよ」
『えー!?マジでぇー!?そんなの聞いてない!!』
「一番始めにいっただろ」
『それは総攻撃的な戦の時だけでしょ〜?!』
「アホか、見廻り含め、全ての事に対してだ」
『有り得ない!つーかマジ無理だから!!私外とか無理だから!!大体長官から何も聞いてないの?!』
「は?とっつぁんから?」
『そうだよ!!松平様から!!!』
若干慌て出した彼女に土方が首を傾げる。
松平から言われた事は暫く彼女一本で真撰組の勘定方を動かせと言う事だけ。それ以外は何も聞いていないのだ。
特になにも、と返す土方にまゆはこれでもか、と目を見開くと慌てて携帯を取り出した。
「どうした?」
『長官に確認するの!!!』
随分と焦っている。
見廻りに行くのに何をそんなに焦る必要があると言うのだろうか。
不思議に思いつつ土方は彼女が電話をしている間、未だ照りつける秋の空をぼんやりと眺めて待った。
『・・・あ、長官?!まゆだけど!!なんかね、肘肩さんが見廻り行けってゆーんだけど!!・・・そう、そう!!ダメだよね?!私見廻っちゃダメだよね!?・・・・・え?・・・・ちょっ、なんで・・・大丈夫って・・そんなっ!ちょ、長官!!長官ってば!!!!』
どうやら電話を切られたのだろう、土方は顔を空に向けたまま目だけ彼女へと向けると「見廻りは?」と問うた。
『・・・行って良いって・・・』
そう言う彼女の表情はめちゃくちゃ不貞腐れている。ものっそい不機嫌そうだ。
そもそも今彼女が電話口でいった"私見廻っちゃダメだよね"という発言が気になったが松平がOKを出しているんだから問題は無いだろう。
土方は煙草のフィルターを歯で噛み、隙間から煙を出すと「俺とペアだ」と付け足しておいた。
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