勘定奉行
ピンポンパンポーン
『これから名前を呼ばれた方は至急、勘定方会計室までお越しください、局長近藤さん、副長土方さん、一番隊隊長沖田さん、監察方山崎さん。繰り返します。局長近藤さん、副長土方さん、一番隊隊長沖田さん、監察方山崎さん、以上4名は至急、勘定方会計室までお越しください。』
この放送を聞いた時、各々マヨネーズを啜っていたり、藁人形を作っていたり、ミントンをしていたり、盗撮コレクションを整理していたらしいですが、全員のその手がピタリと止まり、顔が恐怖で青くなったそうです。
「・・・・で、なんでしょうかι」
勘定方会計室、その中央に置いてある机を挟んで反対側に一列に正座をさせられている男たち。
その目の前でこの4人を呼び付けた相手は薄ら笑みを浮かべながらそれぞれに小さな紙を叩きつけた。
『なんでしょう?じゃないよね近藤さん?なんでアンタら此処に呼ばれたか分かってないのかよコラ』
ニコニコと笑みを浮かべながら舌を巻くのは真撰組勘定方の主任、加藤まゆ。
外見は「立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花」と言うほど可愛く纏まっていると言うのに性格がイコールで結びつかない性格破綻者。
「え?え?え?!な、なに?!昨日出した経費に何か不備でも?!」
『不備?不憫なのはあんたたちの頭なの中でしょう』
そう言うとまゆはまず近藤に一枚の領収書を叩きつけた。
『まずは近藤さん、なにこの接待費と書かれた領収書は!!』
「え?・・そ、それは・・その言葉のまま、の接待、費用、です」
『私の目を見て言ってよ。じゃぁ質問です。何処の誰を接待したんですか?』
「え・・・・っと、松平、のとっつぁん?」
『ほー?長官を?ソレにしては料金が安いよね、2人で7000円??私の調べじゃ此処で使ったキャバクラすまいるの一時間のセット料金は5000円、そして女の子の指名料一時間が2000円。計7000円なんだけど?もし接待で松平様がいた場合10000円は超える計算なんだけど?』
「す、すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!給料日前でお金なくて経費で落とせるかとォォォォォ!!!!」
『兎に角、これは経費には入りません。よって破棄!!!』
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
目の前でビリビリに破られていく一枚の領収書。それを号泣で眺める近藤。
それをシラっとした目で見ると今度は土方の方へと向きなおした。
『次は土方さん』
「俺はそんな無駄なモンを経費で落とそうなんてしてねーよ」
『へぇ?ならコレは無駄ではないと?私物でもないと?』
バン!と出された領収書。その領収書には「潟}ヨリーン工場」と記載があった。
『明らかに貴方の私物だよね?しかも何個買ったの?なんでマヨネーズで42000円も使ってるの?これのどこに経費で落ちる要素があるの?』
「お前なぁ、分かんねーのかよ?コレは隊士たちの士気を上げるために購入したマヨネーズ10ケースだ」
『何処らへんで上がるのよ。つーかマジで何を上げようとしてんの?コレステロール値?隊士さんらの志気ってゆーか死期を上げようとしてるの?』
「アホか!士気だっていってんだろ?!一人一本マヨネーズを与えりゃ皆喜んで業務に励むに決まってんだろ」
『土方さん、精神科の治療費は経費で出しますからまずそちらに行って下さいアホが』
「誰がアホだっ!!!!!」
『兎に角これも落とせませんので破棄っ!!!』
近藤同様、目の前でビリビリにされる領収書。土方は苦々しくその舞って行く紙きれを眺めながら舌打をして煙草を揉み消した。
『次!!沖田さん』
「なんでィこの家畜が」
『毎日仕事をサボって惰眠を貪ってる家畜同様の生活をしている貴方に言われたくないです、まだ家畜の方が人間様の役に立てるように仕事をしてるんじゃないかな?つーかこの領収書はなに?つーか領収書というか屯所の勘定方に着払いで届いたこの荷物なんだけど?黒魔術一式セット15万円。馬鹿?バカなんだよね?馬と鹿並みの脳ミソしか持ってないんだよね黒魔術で何をする気だったの?誰を貶めるつもりだったの?飛脚の方が可哀そうで一応15万払った私はまず始めにハマった感はありましたけど、更に誰かを亡き者にしようとしてるよね?』
「オメ―は何処で息継ぎしてんでィ、つーか誰を亡き者にだぁ?んなの決まってんじゃねーか、土方の野郎でさぁ」
「総悟ォォォォ!!テメー何またくだらねー事を!!!」
『あのね沖田さん、土方さんを亡き者にするのは賛成する。死ねと思う、けどもし本当に死んだら葬式など一切の経費はこちらで持つ事になるんだよ。ただでさえ国から支給される金額に限界があるのに、これ以上無駄な経費は作れないよ』
「お前も突っ込みどころ可笑しいだろォォ!!!??」
「ト、トシ!!落ち着いて!!大丈夫だから!!トシの葬儀は俺のポケットマネーで!!」
「そう言う事じゃねーだろォォォォォ!!!!!」
抜刀しそうな土方を抑え込む近藤、その横で黒魔術一式15万の領収書も無残に破り捨てられて行った。
『まぁ、沖田さんに15万払い戻しなさいといってもなかなか返してくれなそうなんで次の給料から天引きさせて頂きます。』
「ゲッ!!マジですかィ?!俺ぁ田舎の家族に仕送りをしてるんでさァ、だからんな事されたら・・・」
『・・・・・全員お亡くなりだよね?』
「ッチ、」
『では次、山崎さん』
「は、はいっ!!!」
ギロっとまゆが山崎を睨みつける。ぱっちりとした女の子らしい目がヤ○ザさながらに据わる。
『山崎さんには2つ程お伺いしたい領収書がありあます。まずこっちの「大江戸スポーツ店、8500円」と言う領収書だけど・・・』
「す、すいませんでしたぁぁぁぁ!!!つ、つい出来心でミントンの練習用ラケット経費で落ちるかな?って!!!」
「山崎、テメーんなもん自分で払いやがれ」
『土方さんが言えるセリフじゃないと思います。ではもう一枚。この領収書は?』
「え?あ、ソレはこの前張り込みで掛かった食費代なんだけど・・・」
『それは分かってる、けど10日だったよね?なのに何で6000円?一日三食食べてるよね?安くない?』
「あぁ、ソレは・・張り込みの時はアンパンに牛乳しか食べないから一食200円あれば十分なんだよ。」
てへへ、と恥ずかしそうに笑う山崎。言われてみれば、まだ若干顔色が悪い、10日もアンパンのみの生活をしていたのでは無理は無いが。
まゆは、ふむ、とその2枚の領収書を眺めると破くことなく懐へとしまいこんだ。
『ならこの2枚は経費で落とします』
「え?!本当!?」
「「「え?!なんで?!なんで山崎だけ!??」」」
『そもそも、山崎さんの張り込みの食費は3万を予想してたの。けど予想よりも安値で上げてくれたからちょっとしたご褒美ってとこかな。ラケットの料金を足しても3万の半分も行かないし』
「「「えええェェェェェェェ!!!!!!?????」」」
全員が絶叫する中、山崎だけが幸せそうに微笑んでいたとかいなかったとか・・・・
そしてその後、案の定、全員にボコボコにされたとかされなかったとか・・・
真撰組勘定方加藤まゆ。
彼女がこの真撰組にやってきたのは今から少し前のお話です。
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→あとがき
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