夕方、以前山崎が作ってくれた薔薇の場所に摩由は来ていた
とは言ってもそこには50本近い薔薇が植えられていて豪華に薔薇のアーチまである
ちょっとした花壇、と言うよりは薔薇園と言っても良いかもしれない
最初は山崎の手で10本ほどの苗が植えられていた簡易的なものだったのだが、後から後からその量も花壇としての内容も増えて行った
後から聞いた話、最初の日にはすでに注文はしていたらしいが届くのに期日が掛かったようだ
そんな真撰組には少し似つかわしくない薔薇園の前で摩由は鼻腔いっぱいに薔薇の香りを吸い込んだ
良い香りだ
甘く芳しい香りに少しうっとりと目を細めながら摩由はアーチの薔薇に手を添えた
そしてその薔薇の花を取ろうとして茎に手を付けた時、プツリと肉の切れる感触がした
あ、と思い人差し指を見るとプクリと丸く血が出ていた
やってしまった・・・
この薔薇のように赤く綺麗な鮮血
躊躇うことなくその指を口に咥えて舌で血を舐め取る
そして口の中から指を出した時には、もぅそこには棘を刺した傷なんて物は無くなっていた
『痛みはあるのに、な・・・』
何事も無かったかのような綺麗な指の腹を少し悲しげに見つめると再び薔薇の茎に手を出した
今度は棘に気を付けて
そしてブチっと一つの薔薇を手の中へ納めるとゆっくりと唇を近づけて行った
まるで口付け
みずみずしく潤った唇が、同じくみずみずしく潤った薔薇の花弁に触れる
その瞬間
薔薇は枯れてパラパラと潤いの無くなった花弁が夏の生温かい風に吹かれながら、夕やけの空に高く高く舞いあがって行った
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