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「あと少しだね」

ベットに横たわり、窓の外を眺めながら呟く彼女に俺はなんと返したらいいか分からなかった。

地球が住めなくなってもう何年経っただろうか。

原子力の多使用、大気汚染、森林伐採・・・数々の地球を破壊する人間達の行為により、地球は生命が住むにはあまりにも壊れすぎてしまった。

人々は新たに住む星を探し、巨大な宇宙船で宇宙をさまよっている。

だが、いくら巨大といっても世界中の人が全て乗るのは不可能だった。

毎日毎日暴力や強奪が行われた・・・国もあったらしい。

幸い俺達が住む国、日本は世界の中でも宇宙船に乗り込むことにおいて優先され、俺と彼女の___名前は乗ることが出来た。

いつか学校で「宇宙船地球号」なんて習ったような気もするが。

その言葉を思いついた偉い人も、それが本当になるとは夢にも思っていなかっただろう。

・・・あの社会の歯車となっていた日々が懐かしく思える。

休日出勤も当たり前にしていたあの頃、しかしそれでも「自由」というものは今よりも遥かに存在していたのだと気付かされた。

地球に住んでいた頃に比べて、衣食住は明らかに狭まっただろう。

そして最も変化したと思うのは・・・

俺は窓の外__俺にはよく分からない機械が忙しなく動く様子を眺めている名前をちらりと見た。

宇宙船の中では食糧不足が深刻な問題として取り上げられている。

そのために政府は60歳以上と助かる見込みのない難病の患者は「棺桶」に入れ、宇宙船の外に出すという政策を行ったのだ。

・・・名前は難病に侵されている。

地球に住んでいた時から身体が弱く、いずれ結婚までする予定でいたので、医師から一通りの説明は俺も受けていたが、1日3回、薬をちゃんと飲めば通常の人間と変わらない動きが出来た。

もちろん、激しい運動は禁止されていたが、
へろへろで帰ってくる俺よりも名前はよっぽど健康なのではないか、と度々思っていたほどだ。

そんな感じなので「弱者の搾取」などと呼ばれているその政策には名前は引っ掛からないだろうと心では安心していたのだ。

つい1ヶ月程前、名前に一通の手紙が送られてきた。

「苗字名前様 地球政府」

まさか、そんな、名前が。

名前よりも俺は混乱していたに違いない。

名前に縋り付いて泣く俺に、「独歩くん、泣かないで。大丈夫だよ」

なんて声を掛けさせてしまった。

・・・1番泣きたいのは名前だっただろうに。

俺はつくづく人の気持ちを考えて行動出来ない人間だと、自分が情けなくなった。

愛する彼女のことぐらい、1番に考えてやるべきだった。

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