ring-present-
ある日、家に帰るとポストの中に見慣れない封筒が入っていた。
差出人は不明。住所もこちらの住所だけ書いて寄越したらしい。
整った字でエルザの名前と住所が書いてある。
誰だろうか。
なんとなく、予感はしていた。
でもあり得る筈がないのだとその予感は直ぐに打ち消した。
ひとまず、家に入って中を開けることにして、丁寧に糊しろを剥がした。
変に重量のあった封筒の中からは、チェーンとリングが出てきた。シンプルで可愛い。リングは、良く見ると蝶がモチーフになっているらしく、真ん中に小さく紅い石が嵌め込まれていた。
思わずリングに見とれていると、手紙も入っていることに気がついて慌てて読んだ。
「ジェラール…」
そこには簡単に、
『貰ってくれたら嬉しい』
とだけ書いてあったが、誰からか分からないほど馬鹿ではない。
「直接渡しに来ればいいものを…」
今、彼はどこにいるのか。
一つの場所に留まることが出来ない最愛の人は、周りくどくて、不器用だ。
あれで器用そうに見えるが案外不器用で、臆病なのである。
「貰わないはずがないだろう」
こんな素敵な、エルザのツボを完璧に捕らえた贈り物を、みすみす突き返すなんて出来ない。
こんなに好みや性格を理解してくれるのはきっと世界中探してもジェラールしかいないだろう。
不器用で臆病な彼は、誰よりも優しくていつだってエルザの心の支えであり、拠り所である。
住所も名前もない、贈り物。
こちらからは連絡が出来ないのが歯痒い。
正直ずるいと思う。
こっちは待っているしか出来ないのが。
探したいのに、会いたいのに、そうさせてくれない彼がずるい。
あちらからは、こんな指輪まで贈っておきながら、こちらからは何も出来ない。
させてくれない。
「ばか…」
それだけ呟いて、エルザはリングを首に下げた。