開かれた扉の中には虫の絵が飾られていた。
そして、床では蟻が忙しなく這っている。
蟻はまぁいいとして、シオンは看板に目をやった。
「はしに注意、ねぇ」
昔本で読んだ、どこかの国にあるとんちのようだと思った。
だとすると、端を歩くと駄目なんだろう。
先に進むと、やはり両壁から黒い手が伸びてきて薔薇をむしろうとしてきた。
真っ先に薔薇を狙う辺り、この薔薇をは大切に扱わなくてはならないようだ。
分かりきっているものなど怖くもなんともないので真ん中を悠々歩く。
すると、曲がり角でなにやらぴょんぴょん跳ねるものを発見した。
一瞬驚いたものの、よく見れば美術館の中で見かけた赤い瞳の女の子だ。
自分以外に人がいたことが嬉しくて早足で近寄って声をかける。
「なにをしてるの?」
「…あ」
ビクッと肩を跳ねらせた少女はこちらを振り向くと小さく声を漏らした。
「ごめんね、驚かせちゃって。僕はちゃんと人間だから」
「お兄さん…美術館にいた人」
「そうだよ。君も美術館にいたよね」
こくりと頷いた彼女は、イヴと名乗った。
両親と美術館に来たのだが、いつのまにかこんな状態になっていたそうだ。
しかも、ここに来るまでの経緯はほとんどシオンと変わらないことも判明。
あんな悪趣味な道を一人でやりきった少女に感嘆したと同時に、それでもきっと怖かったんだろうな、と悲しくなった。
怖くないはずがない。
自分でさえ恐怖を感じるんだら、こんな小さな女の子を一人にさせる訳にはいかない。
「お兄さんは、なんて名前なの?」
「僕はシオン。よろしくねイヴちゃん。これからは二人で出口を探そう」
「うん!よろしくねシオン」
可愛らしい、子供特有の無邪気な笑顔に心が癒される。
「イヴちゃんさっきは何をしてたの?」
「蟻さんに絵を届けようとしてたの。でも高くて届かないの」
そう言って彼女が指差した先には、蟻の絵があった。
「蟻って、入り口のとこにいた?」
「うん。見たいんだって」
イヴは蟻と話せるのか…。
それともゲルテナが与えた力か…。
どちらにせよ、この絵を蟻に届けてみよう。
「じゃあ、一緒に届けようか」
「うん」
蟻の絵を壁からはずし、イヴと手を繋いで再び来た道を戻った。
端に注意しながら。
繋いだ手から、人の温もりを感じてひどく安心した。
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次回、多分ギャリー