始まりの美術館

ある日、シオンは兄であるギャリーと共に美術館に来ていた。
その美術館では今、丁度ゲルテナという人物の作品を展覧しておりそれが見たくてギャリーを引っ張ってやってきた。
休日なんだから寝かせてよ、と不満たらたらな兄は服飾関係の仕事をしている。
あのオネェ口調で仕事に付けたのは驚きだが、更に驚いたのは社会では意外と上の方にいるということだ。

服飾、所謂デザイナーの社会とはいったいどんな縦社会なのだろうか。
不思議である。



「兄さん、ちょっとあっち見てくるね」
「はいはい。いってらっしゃい」



吊るされた男を見ていたギャリーにそう言い残してその場を去ろうとすると、赤い目をした女の子とすれ違った。
えらく高そうな服を着た茶髪の綺麗なその子は、長い髪を揺らして、さっきまで自分がいた、もといギャリーのいる絵のところに行くようだ。

あんな小さな子も絵を見るんだな、と感嘆したが、すぐに意識はゲルテナの作品に吸い込まれていった。

精神の具現化。
無個性。
赤い服の女。

どれを見ても、考えさせられる。
ゲルテナは作品には魂が込められ、宿ることが出来るとしている。
ならば、これらはそれぞれ生きていて、魂を持って作品としとの生涯を過ごしているのだろうか。

そう考えに耽りながら作品を鑑賞していき、ふと気づいて足を止めた。



「あの絵はないのか?」



今日ここに来た最大の目的が見つからず首を傾げる。
美術館の中はほとんど回っていて、見落としたのだろうかと考えるがそれはないだろうと直ぐに否定した。
作品は一つ一つじっくりと、細部まで鑑賞して回ったからだ。


今日、もしかしたら生であの作品を見れると思ってはりきって来たのだが、どうやら期待はずれのようで小さく肩を落とした。
しかし、ゲルテナの作品を見れただけでも十分充実したのでそれはそれで良かった。
ゲルテナはシオンの尊敬する美術家の一人だ。
ここに来れただけでも幸せなのだ。


ふと、絵空事の世界の下に青い絵の具が垂れていることに気がついた。



「なんでだ?」



そんな簡単に絵の具が溶けるはずもないので、怪訝に思って近付いてみると、一瞬にして辺りは暗くなり、地面に文字が浮き上がった。



おいでよ
シオン



「おいでって…誰だよ。ってかどこに?」



不気味な雰囲気に少々驚いたものの、館内を散策することにして歩き出した。















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次回、多分イヴとギャリーが出てくるはず


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