ごめんね私、もう終わりにしよう?
無理な恋をしてきた。
『ごめん、予定できたから今日行けなくなっちゃったんだ。』
『…そうなんだ。わかった。』
通話を終わらせ、溜息をつきながら携帯の電源を切る。
初めからわかってはいたんだ。
遊び≠ネのだと。
彼はそういう人間だ。
特定の1人に留まることは決してない。
きっと歴代の彼女たちも同じような思いをしてきたはず。
今日の彼の予定も別の女とのデートだろうとは簡単に想像出来る。
前に予定があるのだと同じように私とのデートをキャンセルしてきて、私は1人で諦めて買い物に出かけたのだけれど。
そしたら偶然#゙に出会った。
隣にはかわいい女の子。
地味な私とは…全然違う。
『もっと早く…サヨナラしてればよかったんだね。』
こんなに心を病んでしまうまで見て見ぬふりしてきた。
そうする他、自分にはどうしようもなかったから…。
手首の傷も数えられないほどになって。
机の上に鏡を出し、自分自身と向き合う。
『ごめんね私、ごめん…。』
もっと大事にしてきたら、もっと幸せな人生を送れていたのかもしれない。
あんな人とは違う良い人に巡り会って、笑顔のたえない毎日を送れていたのかもしれない。
『もう…終わりにしよう?』
鏡の中の私は泣いている。
鏡の中の私は…望んでいるんだ。
音も立てず机の上に置かれたペンたてから一本のボールペンを取り出す。
上の突起を押し、カチリと小さな音を立ててその先から芯を出した。
『ありがとう。』
ペンは剣よりも強しという。
たとえ意味は違えど私はその通りなのだと思う。
喉元に両手で支え持つそれの切っ先≠向ける。
『来世では、あなたも私も、幸せでありますように。』
言い終えると同時に噴き荒れる赤い鮮血は、私たちの門出を見送る花びらのよう。
『…幸せに…なりたかった…。』