ふわり。


もう疲れたの…。



この、狭苦しい世界で生きていくことに。



この、不幸しか持ち合わせていない世界で生きていくことに。



だから私と命を絶とうよ。



そう言えばあなたはどんな顔をするんだろう。



ダメだよって止めてくれる?



いいよって受け入れてくれる?



『私ね、心から笑っていたかった。』



穏やかな風に吹かれながら日の沈みかけた薄暗い歩道橋で2人、流れる車を眺める。



『最近笑った顔見てないもんね。』



『そうだね。笑ってない。』



あなたは淡々と答えるだけ。



今なら…っと、予想を膨らませる。



『ねえ。今からここ飛び降りない?』



あなたは驚きもせず、返事もせず、流れる景色を眺め続けている。



『疲れちゃった。毎日毎日人の顔色伺って…。隠れるように生きてさ…。幸せなんてどこにもない。』



言葉に共鳴するように、クラクションの音が響きわたる。



薄暗くなり始めた街の景色の中で、車のライトがとても眩しくて…。



『幸せになりたかった。誰よりも幸せを噛み締めて生きていきたかった。涙を流すことなく、怒ることなく、悲しみも絶望もいらなかった。ただただ幸せだと思い続けていたかった。』



頬に伝う暖かな感覚さ。



あぁ私は泣いてしまったのか…。



『こんなにも生きていくことを恐れて、こんなにも生まれてきたことを後悔して。』



ここは、この世界は、私には苦痛でしかないんだ。



『この世界にはなにがあるの?私の生きていける場所もあるのかな?』



『幸せって…なに?』



真っ直ぐに目と目を合わせてきたかと思えば、私の言葉に疑問を被せる。



『幸せって生きていくためにそんなにも必要?』



『苦痛だけじゃ、私は生きていけない。 』



そう返すと、あなたは視線を空へとやる。



『…いいよ。』



『え?』



『ここから飛び降りよう。』



その言葉にあなたは手すりへと足をかけ登ると、手を伸ばす。



『迷う前に。』



『うん。』



手を引かれ登ると、2人で車道を見下ろす。



夕方という時間のせいか、車の流れが早く感じる。



『怖気付いた?』



『そんなわけないじゃない。』



ふーんと、あなたはそう言うとため息を吐き出した。



『じゃあ逝こうか。』



ふわりとした感覚がする。



繋がれた手に感じる温もり。



あぁ落ちていく。



あなたと。



『ちなみに君が好きだった。』



意識を手放す瞬間聞こえた言葉。



なんてずるい人。



でもそんなあなたを、ホントは私も大好きでした。



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