Oh, bother!2

麦わらの一味と隻眼の女





神の島


私とナミさんは結局、ルフィさんを説得できなかった。皆もなんだかんだ言いつつルフィさんサイドで私たちに諦めろというばかり。”あの”光景を知らないからそんなに呑気にしていられるのだ。思い出してぞっとする。絶対に行きたくない。しかし、残ったとしても追手が来るだろうし危険は避けられない。
もう船出の用意が進められている。私の味方はあんただけよ、と言って涙目で私の肩を掴むナミさんに何度も大きく頷いた。そんなときだった、何かザザザザと大きな音が近づいてきたのに気がついた。


「ナミさん、みてください。何か来てます、あれって?」
「…エビ!?船を連れて来てくれたのよりも断然大きいわ!ちょっと!ゾロ!!」


慌ててナミさんがゾロさんを呼ぶ。うとうととしていたゾロさんは目を覚まし、欠伸交じりに歩いてくる。そしてそれを見た瞬間、目を見開いた。


「あァ?…何だありゃ、エビ!?でけェ!!」
「向かって来てるわ」
「うわああ!!エビ〜〜!!?」


迫って来たエビが、そのまま突進してくる。ガションッ、という、衝撃を堪えて間も無く、船が移動を始めたのに気がついた。まさかこのエビ。


「ふ、…船を運んでる!!」


船首を向けている向きとは逆向きに船が走り出す。ルフィさんたちがまだ来ていないのに。ナミさんやチョッパーさんがパニックになる中、ゾロさんが叫んだ。


「どこかへ連れてく気だ、俺たちを!!おい!!全員船から飛び降りろ!!まだ間に合う!!」
「だって船は!?船持って行かれたら!!」
「心配すんな、俺が残る!!」
「そんな!あんた一人残ってどうなるの!」
「…いいえ。そんなこともできないようにしてあるみたい。ホラ」


ロビンさんに言われて船首の先を見ると、大型の空魚の群れが大口を開けて追って来ていた。船から飛び降りたとしても、あの空魚の群れに勝ち目はないだろう。そこまで手配済みとは。


「おそらくもう、始まっているのよ」
「”天の裁き”か…追手を出すんじゃなく俺たちを呼び寄せようってわけだな。横着なヤローだ」
「じゃあまたあの島へ!?…ッ」
「イヤですよそんなの…!」
「ルフィ〜〜〜!ウソップ!!サンジ君〜〜!!」


ナミさんの叫びに応答はなく、虚しくも船は連れて行かれるだけだった。ああ、私生きて帰れるのだろうか。不安が押し寄せて、ぶるりと震えた。






エビに連れられて到着した場所は、厳かな雰囲気の祭壇らしき場所。一見、古めかしい宗教を感じさせる歴史的な建築物だが、周りは雲の湖に囲まれていて孤立しており、そのいたるところをサメが泳いでいる。生贄の祭壇と言ったところか。


「間違いない事は”神の島”の内陸の湖だってことね」
「なんだかすごいところに来ちゃいましたね…、圧巻の風景です」
「のんきに感心してる場合じゃないわよ!」


ナミさんに怒られつつ、祭壇からの景色を眺める。大きな森の湖に差し込む光、そして歴史を感じさせる祭壇、ちょっと感動してしまう。分かるわ、その気持ちとロビンさんが共感してくれた。
ゴーグルを船内から持ってきたゾロさんが、準備体操をしているのが目に入った。何をしているのかと声をかける。


「向こう岸に渡る」
「まさかとは思いますけど、どうやって?」
「泳いでに決まってんだろ」
「え!?空サメがうようよいるんですよ?見えてます?」
「見えてるよ!バカにしてんのか!」
「だって、無茶ですよ。サメですよサメ!」
「いいから見てろ。俺がサメに負けるとでも?」
「普通人間なら負けますけどね!?あ、ゾロさんってば!!」


どぼんと勢い良くダイブしたゾロさん。雲の海をざぶざぶと泳ぐ姿をはらはらしながら見つめる。ちゃんと刀は三本とも持っているが、刀三本持って泳ぐのさえ簡単ではないはずなのに、サメ相手に水中で戦うとでも言うのだろうか。無謀すぎる。


「ぐあ!!」
「ゾロ!!」
「空サメにゾロが負けてる!!」
「ほら言わんこっちゃないですー!!」


でて来たかと思えば、空サメに食われかけていた。刀でガードはしているも、押されている。その後、サメごとボフンと湖に落ちて、上がってこない。最悪の事態を想像した。


「ギャ〜〜〜!ゾロが食われた〜〜〜!!」
「ゾロさんーーっ!!」
「食べられちゃったのかな…!!」
「食べられたんなら雲が赤く染まるはず」
「何コワイこと言ってんの!?ロビン!!」


チョッパーさんと抱きつきながら叫んでいると、直後ゾロさんがサメを殴り飛ばした。


「あああ〜〜!!ゾロ生きてた〜〜〜!」
「ゾロさん今サメを殴りましたよね」
「殴ったわね」


もうなんでもいい、生きててよかったとチョッパーさんを抱きしめながらホッと安堵の息を吐く。あんまりあっさり倒したものだから、こんなに心配したのが損したみたいだ。とにかく、ゾロさんがとんでもなく強いことだけは理解した。神様にも勝てるんじゃないかこれ。


「まいったな、これじゃ岸へも渡れねェ」


湖から上がってきたゾロさんが濡れた服を絞る。そのときふと樹木に絡みついたつるが視界に入った。あ、もしかして、これを使えばターザン方式でうまいこと岸に渡れるんじゃないだろうか。自分でもナイスアイデアなんじゃないかと思い、ゾロさんに提案してみる。


「このつるを使って向こう岸に渡るというのは?」
「おお…なるほどな。それでいくか」


採用されたことに少しだけ感動しつつ、でも、と首を傾げる。


「森に入ってどうするつもりなんですか?危険ですよ」
「この島には神がいるんだろ、ちょっと会ってくる」
「やめなさいったら!!あんな恐ろしい奴に会ってどうすんのよ!!”神”は怒らせちゃいけないもんなの!」
「悪りいがおれは”神”に祈ったことはねェ」


不敵な笑みを浮かべてそう言うのだから、もう誰が何を言っても聞かないだろう。止めるだけ無駄だ。
ロビンさんも考古学者の血が疼くと言ってついていくことになり、ロビンさんの言った宝石というワードにナミさんが反応して、あれだけ怖がっていたというのについていくと言いだす始末。結局、私とチョッパーさんが船を修理しながら待機することに。


「じゃあチョッパー、ユナ、舟番頼んだぞ!!」
「すぐ戻るから!」
「おう!みんな無事に帰って来いよ!!」
「皆さん、くれぐれも気をつけてー!」


三人が歩いていくのを見送る。皆勇気があるなあと感心すると、同じことをチョッパーさんも考えていたようで。


「みんな勇気があってすげェなァ…おれもその内、勇敢になれるかな……!!」
「……なれますよ、きっと。それに、私はチョッパーさんだって勇敢だと思いますよ」
「そうか…!?何でだ?」
「だって、この祭壇もかなり危険ですもん。そこに残るってことも、勇気がいることですよ」


私は励ますつもりでそう言ったのだが、チョッパーさんはピタリと動きを止め、動揺しまくった表情でぎこちなく私を見上げた。


「一番危険なのおれ達だっ!!!」


気づいてなかったんですか。頑張ろうな、一緒に船を守ろうなと必死で私の脚にくっついてくるチョッパーさんが不謹慎にもあんまり可愛いので、能力を使ってはいけないことも忘れて、もちろんですっと意気込んで返事をしてしまった。



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