Oh, bother!2

麦わらの一味と隻眼の女





神官の裁き


静寂な森に、私とチョッパーさんの話し声が響く。チョッパーさんはメインマストにかけてあったホイッスルを取って首にかけ、私にそれを説明した。


「このホイッスルを吹くと、”空の騎士”ってやつが助けに来てくれるんだ…!」
「”空の騎士”?」
「そうだ!でも一回しか吹けないから、もしもの時に吹くんだっ」


首にかけたホイッスルを手に、少しだけ嬉しそうに説明する。その”もしものとき”が、来なければいいのに。

辺りに誰か来ていないか見張りをしながら、眼帯に触れた。左眼は、使わないと決めたが、その決意が揺らぐ。禁じられたからと言って、能力を使わないことは、果たしてそれは正しいのか。本当に危機が迫ったときは、この能力に頼る他に、私はたたかう術を持っていない。
そのとき、背後からバサバサ、と羽音のような音がかすかに聞こえ、振り向くと、鳥に乗った男の人が近づいてくるところだった。大きな槍を持ったその人は、明らかに危険だった。


「…!!チョッパーさん!あれっ!!」
「え?…!!」
「何だ、殺していい生け贄はお前一人か?」


瞬間的にチョッパーさんが吹いた耳を劈くホイッスルの音が森に鳴り響いた。いや吹くの早いですけどね!でも早くも船のピンチが来てしまったのだ。
敵はシュラと名乗った。神官の一人であり、”裁き”を始めるのだと。ごくりと唾を飲む。ホイッスルを吹いたからといって、すぐに空の騎士が来るとは限らない。時間がかかるのかもしれない。今は、私たちが船を守らなければ。チョッパーさんは人型に変わり、戦闘態勢に入った。


「ユナは下がってろ!!おれが船を守るんだ……!!」
「…!」


私も戦います、とすぐには言えなかった。能力を見せてはいけない、それもあったが、何より怖かった。ドフラミンゴさんに能力を見せろと脅されたときの何倍も怖かったのだ。今は確実に、命を狙われるから。死ぬかもしれないんだ。怖くて足がすくんで、とてもじゃないけど能力どころじゃなかった。
でも、神官の持つ燃える槍で船が破壊されて行くのを見ると、立ち向かって行くチョッパーさんが傷ついて行くのを見ると。そんなこと言っている場合ではないのだと自身を奮い立たせた。もうなりふり構ってられない。


「もうやめてェ!!!」


ばちぃっ!
音とともに破裂音がして、チョッパーさんを狙っていた槍を跳ね除けた。


「…!?」
「…ユナ…!!?」
「ハア、ハア…!!」


こわくて心臓が破裂しそうだ。眼帯を解いた手が震えていた。でもそんなの言ってられない。こんなんじゃ、修行に付き合ってくれたスモーカーさんに怒られてしまう。


「今、何をした女…!!まあいい、じゃあ貴様からだ!!お前の命を”神”に差し出せ!!」
「ユナっ!危ねえ!!」


今度はこちらに槍が向かってくる。怖がって両目を閉じるなんてことだけはしないように、と自分に言い聞かせながら右眼だけを再び閉じた。


「イヤです!!」


神官が衝撃をくらって退いた。私を見る鋭い視線に怯まず睨み返す。


「私はあの場所に帰るまでは、絶対に死にません…!!何があっても!」
「…神の前には誰もが無力…!!それを思い知れ!」


そのとき、鳥に乗り、再び向かってくる神官の背後からこっちに向かってくる鳥が見えた。そこには誰かが乗っている。まさかもう一人神官が来たのかと考えたが、チョッパーさんがそらのきし、と小さく呟いたのが聞こえた。

ギィイン!!


「少々遅れた」
「…!!!空の騎士〜〜!!」
「ハア、…この方が…!」
「こりゃ珍しい客が来た…空の騎士ガン・フォール!!」


空の騎士が戦い始めると、それからは目では追えないほどの速さの激戦。私はしばらく立ち尽くしていたが、ハッとしてチョッパーさんに駆け寄った。


「大丈夫ですか、チョッパーさん…!!」
「お、おれは大丈夫だ!でも、船が…。それより、ユナ、お前何したんだ!?もしかして能力者だったのか…!?」
「私のことは後で説明します。船は、これくらいで済んだだけマシですよ!……すみません、私もすぐに戦っていればこんなことには…」
「いや、ユナがあそこで立ち向かってくれなかったらおれは今生きてなかったかもしれねェ…怖かっただろうけど、ありがとうな!!」
「〜〜〜…!」


優しすぎるチョッパーさんをひしと抱きしめて、戦いを見守った。
空の騎士と神官はほぼ互角、どころか騎士が押しているようにも見えた戦いは、いきなり急展開を迎えた。空の騎士が動きを止めたのだ。それはまるで、何か見えないものに阻まれたように、突然身体の自由を奪われたように見えた。そして次の瞬間には、神官の槍が空の騎士を貫いた。


「空の騎士〜〜っ!!」
「…!!落ちる!湖には空サメが…!!」


湖に落下する空の騎士。空サメがいるこの湖に落ちては、まだ息があったとしても食われてお終いだ。


「どうしましょう、チョッパーさん!!助けなきゃ…、チョッパーさん!?」


慌ててチョッパーさんに話しかけようとするが、それは一足遅く、チョッパーさんは湖に飛び込んだ。助けたい一心だったのだろうが、チョッパーさんは能力者。飛び込んだところで、溺れてしまう。私が助けないと!眼帯をすばやくキツく結ぶ。左眼は固く閉じ、湖に飛び込んだ。神官と空サメがもう襲ってこないことを切に願いながら。
視界が悪く、やっとのことでチョッパーさんがもがいているのを見つけ、しっかりと抱えておそるおそる湖から顔を出す。神官はもういなくなったようだ。運良く空サメは近づいてこない。今の内だ、とチョッパーさんを下ろしてすぐに空の騎士を助けに行く。今度はすぐに見つかったものの、鎧を着ているので思いのほか重たく、引き上げられない。下手をすれば私まで沈んでしまいそうだ。
すると、掴んでいた空の騎士の鎧がいきなり軽くなった。驚いて水面から顔を出すと、大きな鳥が何羽も来ていて、鎧をくわえて引き上げてくれていたのだ。


「鳥…!?手伝ってくれるの…!?」
「ジョ〜〜〜!!」


その鳴き声は、イエスと受け取っていいのだろうか。わからないが、信じてもよさそうだ。空の騎士は鳥に任せ、私は空の騎士の相棒である鳥を助けに、もう一度潜った。




「なんとか…助けられた…」


ゼエゼエと息を吐きながら、祭壇の上に寝転ぶ。私自身は能力者ではないから、左眼さえ水に触れさせなければ問題はないらしい。よくよく考えれば、日々お風呂で体感していることだ。


「はっ!!ハア、ハァ…ハァ…」
「チョッパーさん!!よかった、目が覚めたんですね!」


目を覚ましたチョッパーさんを見下ろす。チョッパーさんは何度か咳き込み、荒く息をしながらきょろきょろと辺りを見回した。


「空の騎士と変なトリも…!早く手当てしなきゃ!ユナが…助けてくれたのか!?」
「あの鳥たちが手伝ってくれたんです」


指差した鳥たちを見て、チョッパーさんはびっくりして叫ぶが、すぐに何の鳥か思い当たる節があったのか、サウスバード…!と言っていた。鳥たちは何度か鳴いた後、目が覚めたのを見届けたように去って行く。


「どうかしました?」
「あいつら、みんな…空の騎士を”神様”って言ってた」
「え、言葉が分かるんですか?…それより、神様って…!?」
「わかんねえ、とりあえず手当てが先だ!空の騎士が重症だ…!」
「手伝います。もちろんチョッパーさんの手当てもですよ!」
「…ああ。そうだな…!」


センゴクさんにほぼ無理矢理たたき込まれた医学本や処置対応のための本の知識が役に立つ。かじった程度ではあるが、ないよりマシだ。チョッパーさんの指示に従って手当てをしながら、冒険に出たナミさん達が無事で戻ることを祈った。



- 9 -

back<<>>

top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -