Oh, bother!2

麦わらの一味と隻眼の女





さよなら空島


宴の後、騒ぎ疲れて眠ってしまっていたが、何やら周りが騒がしくて目がさめた。


「ん、……どうしたんです」
「あ!ユナ!黄金があるんですって!」
「ユナは知ってるよ、なァ!おれたちが見つけたもんな!」
「黄金……ああ、はい!そうなんですよ!」


すっかり忘れていたが、そうだ。早く言いたかったのだ。私とルフィさんはヘビのお腹の中に迷い込んだ際に、いくつも黄金が転がっているのを見た。今から取りに行くのだという。あのヘビまで宴に参加していたので、ちょうど近くにいる上に大口を開けて眠りこけている今がチャンス。


「何よ〜!!黄金見つけたなら、早く言ってよね!!」
「すいません、ゴタゴタで忘れてて」


黄金と聞いて嬉しそうに私の肩を叩くナミさん。かなり痛かったが気にしないでおく。


「で、それどこなの?」


キラキラ輝いた瞳でナミさんに見つめられる。あはは、と渇いた笑みを浮かべて告げた。


「へ、ヘビのお腹の中です」


キョトンとするナミさんたちに隣で眠りこけている大蛇を指差すと、揃って目を見開いた。


「えええ!!」
「マジか……!!」
「またあの中に入らないといけないの!?嫌よそんなの!」
「まあそうですけど、本物の黄金ですよ。取りに行かない手はないでしょう?」


そう聞くと、ナミさんはニヤリと笑ってガッツポーズを構えた。やはりそれでこそナミさんだ。


「もちろんよ!!野郎ども、黄金奪いに行くわよー!!」
「よっしゃー!!」


ナミさんの気合の入った声にルフィさんが手を突き出す。袋をたくさん用意して、ヘビの口の中へ入って行った。




「お、重い…」


背中に背負った袋にパンパンに詰め込んだ黄金の数々。ありったけ掻っ攫い、蛇の口から出てきてあとはロビンさんを待つのみだ。嬉しい重みではあるが、何しろ本物の純金、思わず声が漏れた。


「大丈夫かい、ユナちゃん。少し俺に分けていいよ、重いだろ?」


ミスタージェントルマンのサンジさんが私に声をかけてくれるが、慌てて首を振る。


「あ、いいんです、自分で持ちますよ」
「いやいや、腰でも痛めたら大変だ。せめて一つ、このインゴットくらい。ね」


結局、ヒョイと一つ抜き取り、自分の袋に入れてしまった。インゴット一つでも随分軽く感じる。


「…ありがとうございます。随分マシです。サンジさんは大丈夫ですか?」
「これくらいどうってことないさ!キツくなったらいつでも言ってくれよ、まだまだ持てるからね」


微笑んだサンジさんは軽々と袋を持ち上げてみせる。頼りになるなあ。微笑んで頷く。そこへ、ロビンさんがやっと来たようだ。しかし、一人ではない。シャンディアや空の住人たちも大勢一緒だ。さらには、何か布でくるんだ大きな筒状のものを運んできているではないか。


「おーいロビン!急げ急げ!逃げるぞ、黄金奪ってきた!!」
「アホ、言うな!!」
「やべー!!!巨大大砲だ!!」
「ギャ〜!!大勢いるぞ!!」


確かに巨大大砲にも見えるが、もしそうならばロビンさんはあんなに悠長にしていないだろう。大砲ではないと思ったが、みんなはそうだと思い込んでいるようだ。


「逃げろ〜〜〜!!!」


ルフィさんが駆け出し、それに続いて皆が走り出す。私ももちろんそれに続いたが、黄金が重くてよたよたしていると、前を走っていたはずのゾロさんが戻ってきた。


「ど、どうしました?早く行きましょう!」
「貸せ」
「はい?…わ!!ちょ、ちょっとゾロさん!」


ゾロさんは短く告げると、ひょいっと私の背中の黄金を袋ごと取り上げた。ゾロさんも自分の袋を抱えていたというのに。慌ててそれを取り返そうと手を伸ばすが、うまくかわされて走り出す。


「ぞ、ゾロさんってば!さすがに二袋は重いですよ!!」
「こんなもん一袋も二袋も変わんねェよ。お前に持たせたら、せっかくの黄金どこで落とすかわからねェからな。遅ェしよ」


どれだけ言っても渡す気はないらしい。確かに私が持っていても、足手まといかもしれない。


「…じゃあ、お言葉に甘えて」
「あァ、そうしろ」


フン、と鼻を鳴らし口角を上げるゾロさん。なんだかんだ言いつつ、助けてくれたのだ。ぶっきらぼうな優しさにくすりと笑みを漏らせば、なんだよとじろりと睨まれたが、全く怖くなかった。




そして、ついにスカイピアともお別れをするときがやってきた。コニスさんに案内されてやってきたのは、”雲の果て”と呼ばれる場所。


「あー…降りちまうのかー…おれたち」


ルフィさんが船首に寝転び、名残惜しそうだ。この白い海も、見納めなのかと思うと、やはり名残惜しい。ちゃんと瞼に焼き付けておこうと、じっと見つめる。


「ではみなさん!!私たちはここまでですので!!」
「お元気で、皆さん!!」


コニスさんとパガヤさんが見送りにきてくれる。そして言われた通りに帆を畳んで黄金を船内へ運ぶ。ルフィさんは船首から降りると、にっと笑って私たちを見回した。


「ここ降りたらまた新しい冒険が始まるんだ!!…野郎共、そんじゃあ…!!青海へ帰るぞォ!!!」
「「おお!!!」」


手を高く突き上げ、待ち受けるであろう7000mの坂道を待つ。帆を畳めというくらいだから、それほど高速なのだろう。そう思っていたのだが。落下中お気をつけて、というコニスさんの最後の言葉に首を傾げた。


「落下中??」


私たちの想像の斜め上どころかはるか上を行く青海への降り方。坂道なんかはそこにはなかった。”雲の果て”その文字通り、そこから先は雲は無く、真っ逆さまに落ちていくだけだった。
船内にみんなの絶叫が響く。しかし落ち行く船を、どこからともなく現れたタコが飲み込んだ。そのタコは船を長いあしで包み込み、さながら気球のように船ごとゆっくりゆっくりと下降していく。青海まで真っ逆さまかと思ったが、こういうしかけがあったようだ。


「バルーンだ!!」
「…そういうことか…!!!」
「こういうことは早く言えよコニス〜!!」
「うわー、おもしれェ〜〜!!」
「お…おれァ…もうついにあの世に逝ってしまうのかと…」
「すごい…青海まで素敵な空の旅ですね!」


口々に言っていると、突然空に鐘の音が響いた。それはあの時の、黄金の大鐘楼の音色だった。まるで私たちを送り出しているかのように、それは空に響き渡る。いや、きっと送り出しているんだ。私たちを、シャンディアやエンジェル島の人々が。ありがとうと、聞こえてくるようだった。


カラァー…ン!!カラァー…ン!!


怖いこともたくさんあったけど、それ以上にあまりに楽しい時間だった。空の上の大冒険を、この鐘の音を、私は決して忘れることはないだろう。



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