Oh, bother!2

麦わらの一味と隻眼の女





飲めや歌えや


全てが終わって、晴れ渡る空をしばらく寝転んだまま見上げていたが、チョッパーさんやウソップさんの声が聞こえてきて体を起こした。


「ユナ〜〜!!ゾロ〜〜!無事かァ!?」
「おう」
「なんとか生きてますー!」


手を振り元気アピールをしてみせる。チョッパーさんが駆け寄ってきた。その後ろから、ウソップさんとサンジさん、ロビンさん。皆ボロボロだが無事だ。


「ユナちゅわーん!!心配したぜ!!」


エネルの雷をくらって気絶していたサンジさんは、もうピンピンして駆けつけて、私の服の埃を払ってくれる。こんなときまで紳士だ。しかし私よりサンジさんの方が重傷なのだ。


「私よりも、サンジさん!動いて大丈夫ですか!?」
「俺は平気さ!心配してくれたのかい?ありがとう」
「皆さんタフすぎませんか…海賊ってそんなものなんですか…!?」
「はは、鍛えてるからかな」


その傍らでは、チョッパーさんがワイパーさんの手当てを急いでいる。ゾロさんが先にワイパーさんの手当てをと言ったらしい。正しい判断だ。もうワイパーさんは意識もなく倒れており、今のところ一番命の危険がある。仲間ではないが、敵だったかもしれないが、同じ敵に向かっていた者同士、そしてあの叫びを聞いたら、見捨てておくことなんてできない。
それにしても、とウソップさんが私とゾロさんに言った。


「お前ら、あの雷の雨の中よく無事だったな…!!」
「こいつの能力が役に立った」
「やっぱあのドームみてェなのユナか!雷そこだけ跳ね返ってたから、そうじゃねェかと思ってたんだ!すげェなお前」
「無我夢中でしたから。どうなることかと思いましたが…生きてて良かったですよ、本当に」


安堵の息を漏らしつつそう言うと、サンジさんがぎろりとゾロさんを睨んだ。


「ユナちゃんを助けるどころか、助けられてんじゃねェか!っとに使えねえなマリモマン!!」
「んだと!?てめェはぐーすか寝てたじゃねェかよクソコック!!」


なぜか喧嘩を始めてしまったのをくすくすと笑って止めはしない。そんなに元気があるなら、心配なさそうだ。
結局、黄金の鐘は黄金の船とともに落ちてしまって、手に入れることはできなかったが、ちっとも惜しいとは思わなかった。それは皆も同じようで、惜しかったといいつつもあっさりと諦めていた。黄金だって命には変えられない。
ロビンさんが少し離れたところで一人で遺跡を見つめているのを見つけ、駆け寄った。


「ロビンさん!」
「…あら。お疲れ様、大活躍だったみたいね」
「疲れました、本当に!……遺跡、ほとんど壊されてしまいましたね」
「……そうね。勿体無いけれど、仕方ないわね」
「ええ。……ロビンさん?」
「何かしら」
「何だか嬉しそうですね」
「…ふふ。そう?」


仕方ないと言いつつも、笑みを浮かべて穏やかな表情を見せる。私にそう言われると、ロビンさんは私に微笑みを返した。何だか私まで嬉しくなり、微笑み返す。
そんなとき、ルフィさんとナミさんが大荷物を抱えて戻ってきた。コニスさんも一緒だ。ルフィさんはボロボロだが、思いの外元気そうである。荷物は食糧らしく、広げて皆食べ始めた。長い戦いの中でお腹が空いているのも分かるが、何もこんなところで食べなくたって、と苦笑する。来た時からすでに口いっぱいに肉を頬張っていたルフィさんはどこまでもタフだ。


「あ!ユナ!」


私を見つけたルフィさんが駆け寄ってくる。嬉しそうににっしっしと笑う。


「約束通りぶっ飛ばして来たぞ!」
「…はい。ちゃんと鐘も聞こえましたよ」
「にっしっし!そーか!よォし、お前も食うだろ!早く来ねえとなくなっちまうぞ!」
「はい、行きましょうロビンさん!」
「ふふ、ちょうどお腹が減った頃だったの」


ロビンさんと皆の方へ向かう。すでに山盛りにあった食糧は半分ほどになっていた。パンを一つ拾い上げる。


「あら、ユナ。遅かったわね。自分の分くらい確保しておかないと、すぐになくなっちゃうわよ。コイツ全部食べる勢いなんだから」
「本当ですね…!」


ナミさんがルフィさんを指差しながら言う。ルフィさんはすでに骨つき肉を両手に持ち、次から次へとがつがつと貪り食べる。いやー本当にタフだなあ。それを見ながらパンを頬張る。ただのパンであるはずのそれは、一段と美味しく感じた。
食べ終えてしまった頃には、もうすっかり夜だ。月明かりが明るく、遺跡を照らしている。


「はあ、食った食った!」
「どうする、船に戻る?」
「ウソップ、ナミがあんなこと言ってるぞ」
「人間失格だな……」
「何なのよっ!!」


あ、もしかして、この流れ。デジャヴを感じ心当たりを思いつくと、自然と顔がほころぶ。ルフィさんがそんな私に気が付いたようで、にっと笑った。


「宴だ!!!」





ルフィさんが主となって始めた宴には、エンジェル島をエネルの攻撃でなくしその後神の島に上陸した住人たち、そして同じく里をなくしたシャンディアの人々が混ざり、国を挙げた喜びの宴となった。静寂だった森には、人々の歌い笑う声、囃し立てる太鼓の音が響き渡る。昨日のキャンプファイアーとは比べることも出来ないほど大きな炎を囲み、大勢が歌って踊る。それは体験したこともないほど、楽しい宴だった。


「ユナ、見ろ!鼻わりばし〜!!」
「じゃーん!鼻わりばし〜!!」


ルフィさんとチョッパーさんが鼻と口でわりばしを挟み、踊りながら私に手を振る。どんちゃん騒ぎの中、それを見つけた私はけたけた笑い、笑いすぎて滲んできた涙を拭った。


「あはは…!もう、笑い疲れました!ふふふ!」


その隣でひたすら酒を飲み、次々酒瓶をカラにしていくゾロさんが呆れたように私を見た。


「そのうち顔が戻らなくなるんじゃねえか」
「そうかもしれません!どうしましょう!」
「こうすれば直るんじゃね」


おもむろに酒瓶を置いたかと思うと、ぎゅむ、と満面の笑みの私の顔を手で押しつぶした。ニヤニヤ笑うゾロさんは完全に私で遊んでいる。


「ぶべ!ぼ…ぼぼばんー!(ゾロさん)」
「はは、おもしれェ顔」
「失礼な!ゾロさん、酔ってますね!?」
「酔ってねェよ。俺ァ酒は呑んでも呑まれねえ」
「得意げに言われましても」


言いつつ、また酒瓶を傾ける。本当に水のように飲むものだ。タフなのはルフィさんだけではないらしい。それを見ていると私も飲みたくなってくる。


「私もお酒もらっていいですか?」
「おう。酒いけるのか」
「たしなむ程度に。酒場やってましたしね」
「酒場?お前が?」


ゾロさんは目を丸くする。そうか、ゾロさんには言ってなかったか。頷くと、興味深そうに私を見た。


「初耳だな。飲み比べでもするか?」
「バカ言わないでくださいよ、ゾロさんとは比べものになりません」
「なんだよ。つまんねェな」
「私はその残りで十分です」


ゾロさんの手に握られている瓶を指差す。ゾロさんが今の今まで飲んでいたもので、まだ半分ほど残っている。一本はさすがに多いし、それくらいで十分だ。ください、と言うと、ぎょっとした顔で見られた。


「はァ!?なんでだよ、新しいの開ければいいだろ!」
「一本は飲みきれませんよ!そのくらいがちょうどいいんです。ゾロさんはまだまだ飲むでしょう、新しいのをどうぞ」
「勝手すぎんだろ!」


そうは言いつつ、しぶしぶといった様子で押し付けられた。嬉々としてそれを口につける。それを喉に流し込むと、やはり宴の酒は格別で、より一層美味しく感じた。


「おいしいですね」


機嫌よく微笑むと、ゾロさんはなぜかため息を吐きつつ、新しい酒瓶を開けた。





「ぬあっ!!」
「な、何だよ。いきなりどうした、サンジ!」


ところ変わって、なぜかお玉を手に踊るサンジと自作の太鼓を打ち鳴らすウソップだ。ウソップが太鼓を鳴らすのを止めてサンジを見ると、どこかを凝視してわなわなと震えている。視線の先を追うと、ユナとゾロが二人でキャンプファイアーを眺めていたところだった。


「んん?ユナとゾロがどうかしたか?」
「あんのマリモマン…!!ユナちゃんのほっぺたを気安く触りやがって!!」
「はあ!?ゾロが!?ど、どんな状況だよ!!」


慌ててサンジと同じようにじっと見つめる。会話の内容はもちろん聞こえないが、二人は何やら会話が弾んでいるようで、特に感情豊かなユナはころころと表情を変えている。
あの二人はいつの間にやら仲良くなっていたようだが、ゾロにしては打ち解けるのが早かったように思う。気があうのだろうか。
すると、ユナがゾロから飲みかけの酒瓶を受け取り、それを飲み始めた。


「はあ!?あれって、」
「かかか間接キスゥゥ!!!?」
「うるせェよバカ!!」


サンジが燃え上がりそうなほど雄叫びを上げ、その声があまりにも大きいので踊っていたシャンディアの奴らからぎょっとした目で見られてしまった。慌てて何もない風を装う。


「何してやがんだあのクソ剣士ィィ!オロす!!三枚にオロす!!」
「落ち着けよ!にしては二人とも普通じゃねェか、たぶん深い意味はねェんだよ!飲み回しならよくするだろ!」
「の、飲み回し…か…?」
「ああ、きっとそうだ!!」


言い聞かせるように言うが、それでも許さん羨ましいこと山の如しだチクショウ、と唸るように言う。
レディのことには敏感なサンジだが、ここまで過剰なほど反応することもあまり見ない。いつの間にか、ユナはルフィだけにとどまらず、いろんな奴から気に入られているようで。こりゃ、船を降りるのには苦労するだろうなと苦笑するウソップだが、ウソップ自身もその一人なのだった。

月が美しい夜だった。まだまだ宴は終わらない。



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