7、ごきげんよう聖なる日








誰にだって、上手くいったりいかなかったりすると思う。それがたまたま今回は上手くいったようで




「クリスマス休暇は学校に残れる事になったわ」


久しぶりにリドルの隠れ部屋にお邪魔して、アブラクサスが淹れてくれた紅茶を飲んだ。ミルクティーはとても温かく良い味だった。今の寒い時期にはやっぱり温かいミルクティーが良いわね。




「ユン、どういう事?」

「このミルクティーはとても美味しいわ、アブラクサス」

「ありがとうございます」

「ねえ、聞いている? ユン」

「何の話だったかしら?」

「クリスマス休暇の事だよ。まさかあの嘘で、君の母親が納得したというの?」

「ええ、それが納得してくれたのよ。私も驚いたわ」



シルヴィアが言ったように「クリスマス休暇は恋人と過ごします」という内容の手紙をさっそく母親宛に送った所、「まぁまぁ! ユンもついに恋人が出来る年齢になったのね! 素晴らしいわ!それでこそ私の自慢の娘! クリスマス休暇は是非恋人と過ごしなさい! 学生時代に、恋人と過ごすクリスマスというのはとても大事で特別な日なのよ? 私も学生時代はアルフと……(省略)クリスマスパーティーの事は気にしなくていいわ! イースター休暇や夏休みには帰って来るのかしら? また手紙を待ってるわ!From 貴女を応援するMumより」という返事が返ってきた。




「我が母親ながら単純だったわ、もう少し娘を疑ってくれるのかと思っていたけれど」

「ふーん、上手くいって良かったじゃないか、まさか君は母親を騙した事に気が引けているのか?」

「いいえ、まさか。パーティーに参加しなくていいという目的は達成されたのよ、どんな狡猾な手段にしろ結果が良ければそれでいいのよ、罪悪感なんてちっともないわ」

「……ユンはやっぱりスリザリンに向いているよ」


あの組み分け帽子は間違えてユンをレイブンクローに選んだと思う。

だって彼女は目的の為に親を騙したというのにこんなにも悪気ひとつない顔をしている。





「目的の為ならいつか人をも殺しそうだね」

「そうね、実験台にしていいなら健康的な人間を2、3人欲しい所だわ」

「……。」

「実際に「君になら実験台にされてもいい!」と言って来た男子生徒が1人いたのだけれど、遠慮せずにサンプルにすれば良かったかしら」

「ユンの魅力は、人をもおかしくしてしまうのかい?」

「知らないわ」


クリスマスというイベントが近いせいか、生徒達はどこか浮いていて。

最近は何かと男子生徒に話しかけらる事が多くなった。一体私に何を期待しているのか。あわよくば、なんて思っているのか愛の告白をよくされるようになった。しかし見知らぬ男子生徒に愛やら何やらを告げられたところで困ってしまうのが現状というやつだ。



「人々がおかしくなっているとしたらクリスマスのせいね、カップルの日なんて言われているから、私は愛の告白なんて受ける羽目になっているのよ」

「人はみんな、君のその外見に騙されているんだね、それはそれは可哀想だ。現実は冷酷なマッドサイエンティストだというのに」

「誰がマッドサイエンティストですって? 私はどこにでもいるただの勤勉な学生よ」

「勤勉な学生ねぇ」

「あら、外見で人を騙しているのは貴方もじゃなくって? リドル」

「騙している? 人聞きが悪いな、僕はいつも通り「僕」であって表面も内面も全てトム・マールヴォロ・リドルさ。隠している部分なんてどこもない」

「よく言うわ、貴方の内面を知る人物なんてごく僅かでしょう?」

「そのままその言葉を君に返すよ」


淡々と二人は語り、紅茶を飲んでいた。この二人の静かな言い争いを止めた方がいいのかこのままでいいのか間に挟まれたアブラクサス・マルフォイは立ったままオロオロして困っていた。





「どうして君が、そんなに愛の告白を受けているのか不思議でならないよ」

「そうね、私も何故貴方は女子の人気が高いのか理解出来ないわ」

「あの、お二人共? 紅茶のおかわりはいかがでしょう?」


恐る恐る、アブラクサスは二人の会話に割って入った。




「頂くわ、アブラクサス」

「僕もだ」

「は、はい!」


紅茶のおかわりを注いで、なんとか二人の言い争いは治ったかな、とアブラクサスは安堵していた。






「けど確かにリドルの外見だけは、人を惹きつけるものがあると思っているわ」

「そうだね、そういうユンも外見は目を惹く程、いい出来だと思うよ」

「好きか嫌いか問われたら、間違いなく貴方のその外見を「好き」と答えるわ」

「お生憎様、僕だって君の外見は「好き」だと言い切れる、君ほど美しい女性はそうは居ないからね」

「……。」



アブラクサスは二人は一体何を考えているのだろう、と困惑した。蔑み合っているのか、それとも褒め合っているのか、それとも別の何かなのか。


仲が悪いのか、

それとも仲が良いのか。


ベールに包まれた二人の本当に言いたい事は何ひとつ分かる事はなかった。








※※※※



やってきたクリスマス休暇は、シルヴィアの案のおかげ様で家に帰る事なく学校に残る事が出来た。休暇で家に帰るシルヴィアや同級生達、アブラクサスを見送ってから朝食を取る為に大広間へと向かった。


誰が用意したのか分からない大きなクリスマスツリーを見上げて、クリスマス休暇でごっそり人数が減った大広間へと入るとスリザリンのテーブルにいるリドルと目が合った。そしてお得意の笑顔で手招きをされた。こっちに来いと言っているのだろうか、私はスリザリン寮ではなくレイブンクロー寮の生徒であるので流石にスリザリンテーブルには行けない。




「けどクリスマス休暇中は、真面目に寮テーブルに座ってる生徒の方が少ないよ」

「貴方、優等生のはずよね?」


確かに大広間にいる生徒達は休暇中だからなのか、特に寮を気にせずに皆バラバラに座っているようだった。向こうではレイブンクローとハッフルパフのカップルがイチャついている。なるほど、意外とホグワーツの規律というのは緩いのね。


とりあえずスリザリン寮のテーブル、リドルの隣に座って朝食を食べる事にした。




「ところでリドル」

「なんだい」

「今朝、私の部屋に貴方からのクリスマスプレゼントが届いていたのだけれど」

「ああ、君に送ったよ。こちらこそ素敵なインクと羽根ペンをありがとう、大事に使わせて頂くよ」

「そう、それは嬉しいわ。けど私は貴方のプレゼントを使おうという気にはなれなかったわ」

「おや? 僕からのクリスマスプレゼントは気に入らなかった?」

「ええ、貴方に頂いたスリザリンカラーのネックレスは流石に身に付けるのを躊躇したわ」


勿論、身に付ける事なく箱に入ったままになっている。綺麗な銀のネックレスかと思えばスリザリンカラーである緑の石(エメラルド)がついたネックレスで、レイブンクロー寮である私に対して自寮のカラーのアクセサリーをプレゼントしてくるあたり、彼はとても性格が悪いのではないかと疑った。





「きっと君に似合うよ」

「お気持ちだけ受け取っておくわ」


人を惹きつける笑顔で私に言ったリドルだったが、彼のファンだったら泣いて喜びそうな台詞も私には全く効果がなく表情ひとつ変えずに目の前のサンドウィッチに手を伸ばした。




「ところでユン、君は今日何をするんだ?」

「スラグホーン教授が禁書の部屋に入る許可証にサインをしてくれたから、図書室に行くわ」

「せっかくのクリスマス休暇だというのに、君は毎日勉強ばかりだね。まるで絵に描いたような優等生だ。僕は潔く優等生の座を君に譲るよ」

「ホグワーツは知識と技術の宝庫だと聞いているわ。きっとまだ、私の知らない事だらけよ」


スラグホーン教授に質問しに行ったり、教授のお手伝いをしたりと、何かと仲良くしていたおかげか試しに許可証のサインをお願いしてみたら「君には是非とも、魔法薬学の一歩先の世界を見て欲しい!」と喜んでサインをしてくれた。案外チョロかったわスラグホーン教授、彼は色んな意味で大丈夫かしら。





「ところで、ダンブルドアがにこやかな顔で僕達の方を見ているのが気になるんだけど」

「?」


リドルが不機嫌そうな顔をし、ふと奥にある教授達のテーブルを見ると、ダンブルドア教授は確かに私達の方を見てにこやかな顔をしていた。彼のその視線は、先ほど見かけたハッフルパフとレイブンクローのカップルの方にも向けられていた。





「……見張られている気分だ」

「私達の事を仲の良いカップルだと思って見ているんでしょう、気にしなくていいわ」

「カップル? 誰と? 誰が?」

「私と、貴方が」

「はぁ? なんで僕達がカップルになっているんだ、君が恋人だなんて冗談じゃない」

「あら、クリスマスに男女が二人で一緒にいれば、恋人同士にでも見えるでしょう?」

「冗談はよしてくれ、僕はどう頑張っても、いくら我慢をしても君を愛する事はない。絶対にない。この先、究極の選択を強いられたとしても、君と恋人だなんて絶対にあり得ない」

「「我慢」とか「絶対」とか、否定をするにしても、もう少し優しい言葉は出てこないのかしら?」

「僕にも選ぶ権利はある。仲の良い友人ならまだしも、恋人同士はやめてくれ」

「リドルは女性に優しい優等生だと聞いていたけれど、違ったのね」

「僕だって女性には紳士的に扱うさ、けどマッドサイエンティストとカップルだなんて僕の印象が悪くなるじゃないか」

「そう、冗談を言ってごめんなさい。気に障ったのなら謝るわ」


よほどリドルは私と恋人同士に見られるのが嫌だったのか「あのリドル」がずっと不機嫌そうな顔している。






「来年のクリスマス休暇は嘘ではなく、本当の恋人と過ごせるようにするわ」

「マッドサイエンティストを抱ける聖者がいるとは思えないけど……うぐッ!!?」

「うるさいこれでも食べていなさい優等生」


ユンはテーブルにあった朝食のベーグルを掴んで、リドルの口に押し込んだ。



「ふぁにするんふぁ!」

「I wish you a Happy Christmas and a Happy New Year(貴方にとってすてきなクリスマスと幸せな新年になるよう祈ってるわ)」

「!」



これまで見た中で最高の笑顔をした彼女はクリスマスの挨拶をして、大広間から出て行った。

彼女の背中が大広間から見えなくなるまでリドルの視線をずっとユンを追っていた。








「なんだよそれ」





(年が明けるまで僕とは会わないって事か?)




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