34
「終わったー!!」
今月も原稿を無事に書き上げた私は勢いよくベッドへとダイブした。ふかふかのベッドは私を癒してくれた。最近は睡眠時間削って描いていたから眠くて仕方ない。
ベッドに横になればすぐに瞼が重くなり、眠気がやってきた。一静君は部活で遅くなるみたいだからまだしばらくは帰ってこない、なら……と、少しだけ仮眠しようと目を閉じた。
どれくらい寝ていただろうか、ぼんやりした視界でむくりとベッドから起き上がり、寝惚けながらふらふらと部屋からリビングの方へ向かった。リビングには電気が付いていたが誰もいなかった。
「(……シャワー、浴びよ)」
ずっと机に向かって漫画を描いてたし、そのまま疲れて寝ちゃったから体が気持ち悪い。ついでに頭もスッキリさせたいし、とりあえずシャワーを浴びようと浴室の方へ向かった。
「(そういえば……一静君はまだ帰って来てないのかな)」
そんな事をふと考えながら、ガチャっと脱衣所へのドアを開けた。
「え」
「ん? あ、葵さん?」
脱衣所には、パンツ姿の一静君がいた。シャワーを浴びた後なのか、シャンプーのいい匂いがした。……いやいやいや、それは今は気にしなくていい。気にしないといけないのは目の前のパンツ!なんでパンツ!?そりゃ脱衣所だからパンツ姿でもおかしくないけど、いや今はそういう場合ではなく!
「……。」
パンツ姿の一静君を見た私はその場に固まってしまった。いやだって男の人の裸なんて資料集とかモデルさんの画像くらいでしか見た事なかたっし、実際にこんな目の前で裸を見た事ないし、ていうか一静君の裸……めっちゃエロいんだけど、上半身の筋肉ちゃんとついてるし腹筋もそれなりに割れてるなんて知らなかったんだけど、
とにかく、エロい
「……葵さん?」
「スケッチしても良いですか?」
「え」
「あ、いや、そうじゃなくて!」
ハッとして、目の前できょとんとしている一静の前で両手をばたばたとさせた。私はこんな時に、一体何を言っているんだ!
ああもう、私の顔は絶対に真っ赤になってる……恥ずかしい!!
「ご、ごめん! あの、覗くつもりはなかったの、シャワー入ろうと思ってその……とにかく悪気はないんですごめんなさい!」
ごめんなさい!と何度も一静君に言うと、いつの間にか一静君は部屋着姿に着替えていた。
「えっと、俺怒ってないけど」
「え!? で、でも裸見ちゃったし……」
「パンツ履いてたからセーフでしょ」
「でも、あの、本当にわざとじゃないからね、あのね」
「うん、わざとじゃないのは分かってるよ、それに俺はパンツ姿を見られて困ってもいないからそんなに謝らなくてもいいよ」
「で、でも!」
両手をわちゃわちゃやっていると、一静君は困ったような顔をした。
「でも、どうせ葵さんに見られるならもっと腕とか肩とか鍛えておけば良かったかな、俺の裸はへなちょこだから……」
「そ、そんな事ない、です! なんていうかその、すごかった!」
先ほどの一静君の上半身を思い出してしまい、顔がぼうっと熱くなった。だって一静君の色気がやばかったんだもん!
「すごかった?」
「うん、すごかった! ご、ごめん、今出て行くから! 声をかけずにドア開けてごめんね!」
「葵さん」
「!」
脱衣所から出ようとすると、後ろからのしっと一静が乗りかかるように抱きしめてきた。そのせいで私は再び体がその場で硬直した。
ふと、石鹸のいい匂いが鼻をかすめた。
「いいいいい、一静君?」
「待って葵さん、今からシャワー入るんじゃないの?」
「入るけど、何で一静君は、その」
「抱きしめてるか?」
「そう、それ!」
「葵さんがあまりにも顔を真っ赤にしてたから」
「え?」
「少し、いじめたくなった」
「いや、あの、その」
低音で言った一静君の声に、心臓の音がドクンドクンと早くなった気がした。寝ぼけながら脱衣所に入ったけど、これはもう完全に目が覚めた、いやパンツ姿の一静君を見た時点でもう覚醒はしていたんだけど、寝起きでこのお色気攻撃は身が持たない。
「(何なの一静君のこの色気は!)」
本当に高校生なの?と疑いたくなるくらい一静君は色っぽい。色気では完全に負けてるよ私。ていうかその、お互いの体が密着し過ぎてて、そろそろ顔が沸騰しそうなんですが……!!!
「あのね、一静君、私もそろそろシャワー入ろうかなー……なんて」
そう言うと、一静君は「分かった」と言って、あっさり私から離れてくれた。
一静君の方を見ると、にっこりと笑っていた。なんだか余裕そうなその表情を見て、一静君には勝てる気がしないなと思った。
「葵さん、ドキドキした?」
「ドキドキは、したかな。……というかまだしてる、流石に男子高校生の半裸を見たりとか、密着は心臓に悪いよ。暑くなってきた。」
「大丈夫?」
「あー、うん。なんとか、男の人の裸なんて写真でしか見た事なかったから緊張しちゃった。描く上で裸に見慣れないといけないなぁとは思ってるんだけど」
「葵さんが脱げと言うなら俺はいくらでも脱ぐけど?」
「ぬ、脱がなくていいです!」
耐性のない私に男の人の裸は耐えれそうもない、今だって脳が上手く回転していない。服を着ている一静君でさえ直視が出来ない。だって脳裏に先ほどの裸が焼き付いてしまっているから。
ああもう……顔が暑くて仕方ないです。
「一静君は、なんというか、色気がプンプンしてて凄まじかったです」
あの後に私はシャワーを浴びて、気持ちを切り替えてリビングに戻り、ソファーでくつろいでいる一静君にそう言った。
「色気ねぇ……」
「一静君は年上のお姉様達とかにモテそうだよね」
「年上にモテるかどうかは分からないけど、モテるならやっぱり好きな子がいいかな」
「あの、その好きな子について詳しく、聞いても……?」
すちゃっとメモ帳とペンを持って一静の隣に正座すると、メモ帳とペンを取り上げられてしまい、それらはテーブルの上に置かれた。
「だーめ、流石に照れるから言えない」
「こんな身近に恋の匂いがするのに!」
「そうかもしれないけど、だめ」
だめ、と2回も言われてしまったので渋々聞くのはやめた。
(じゃあ身近に恋してる人いる?)
(うーん、バレー部は恋愛とは遠い奴らばっかりだしな)
(え、及川君とかは?)
(夏休みに振られてたよ)
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