4、あの子を守るのは俺の役目───────----‐‐‐ ‐
葵が英語の教科書を手に持って席に戻ってきた。けどちょっとだけ様子がおかしかった。
「葵、大丈夫?」
「はぁ……緊張した」
「いやいや、葵と岩泉は幼馴染なんでしょ? なんで緊張すんの?」
「え?……そういえば」
「そんなに苦手なの? 岩泉の事」
「何ていうか、上手く喋れない。さっきももしかしたら岩泉君に変だと思われたと思われたかも。なんとなく、苦手だな岩泉君……」
「ふーん(それってさ)」
言おうかと思ったけど葵の事を考えてやめておいた。別に今言わなくていいだろうし、こういうのは自分自身で気付くのが一番良い。
あと、なんというか
面白いから放っておこう!
「苦手と言えば、私も及川徹が苦手だから一緒だね」
「あれ? 徹の事、苦手だっけ?」
「うん、だってほら、及川って凄いイケメンでしょ? 被写体にするには凄く良いんだけど、なんだかあの顔見てると負けた気がして嫌。」
「同じ顔の私としてはそれ複雑だよ」
「あ、双子だったけ。たまに忘れるんだよね、だって全然似てないし」
「そう?」
「顔も性格も全然違う、やたら綺麗な顔してるってところくらいじゃない?」
「綺麗な顔って……じゃあ私達が一緒なのは生年月日と名字くらいだね」
そういえば、昔から似てるなんてあんまり言われなかったかも。私と徹は同じ日に生まれたってだけ。
****
葵に英語の教科書を渡して、自分の教室に戻ると及川がいた。
奴は堂々と俺の席に座っていた。
オイお前、
女に呼び出されたんじゃないのか。
「おかえり、岩ちゃん! 葵いた?」
「いたけど、お前なんでここに。女子に呼び出されてたんじゃねぇのかよ」
及川が座っている前の席に座り、ペットボトルのお茶の蓋を開けて少し飲んだ。
「んー? 何の事?」
「(しらばっくれる気かこの野郎)」
及川の嘘なのか、それとも本当に呼び出されていたのか、真相は分からず終いのようだ。
「ったく、ちゃんと葵に渡したぞ、英語の教科書」
「ありがとう、葵はなんか言ってた?」
「お前は高校に行っても女子に人気で大変そう、だとよ。つーか何で葵の行く高校が、俺らと同じ青城だって教えてくれなかったんだ」
「あれ? 言って無かったっけ?」
「ねーよ!」
俺と一緒の高校だと分かった途端に
なんか葵に妙な表情されたし。
なんつーかよお、
「やっぱり俺、葵に嫌われてるわ」
「え? そんな事ないって、葵が岩ちゃんを嫌うなんてありえない」
「なんでそんな事言えんだよ」
目を逸らされて、
昔より距離遠くなって、
まともに話せなくなって
嫌われてる以外にあんのか?
「だってさー」
「?」
「家で、葵によく岩ちゃんの事を聞かれるよ?」
「ハァ?」
「岩ちゃんが部活でどうだったとか、岩ちゃんの好きな食べ物とか、岩ちゃんの身長伸びたよね、とか、あとは……」
「いや、もういい」
「とにかく、葵が岩ちゃんの事を嫌ってるって事は無いから」
へらへらと及川はそう言った。
「(なんで葵は俺の事を聞くんだ?)」
よく分からなかったけど、嫌われてるという事はないと及川はハッキリと言った。その言葉を聞いて、少しだけ安心した。
もう少し俺から歩み寄ってみるか。
「でさー、岩ちゃん」
「あ?」
「葵、可愛かった?」
「ハァ!?」
「どうなの?」
「んな、顔とか気にしねーよ」
……いつも通りだったと思うけど。
「あれ?岩ちゃんは葵の事可愛いと思わないの?」
「そりゃあ、思うけど……」
「岩ちゃんのスケベ」
「なッ!?」
「冗談だよ、でも葵が最近ますます綺麗になってきたからお兄ちゃんとしては心配なんだよねぇ」
「お兄ちゃんって、心配ってなんだよ」
「俺ってさ、女の子に超人気じゃん?」
「ハァ?」
「葵もさ、最近人気なんだよねぇ男子に」
「!」
葵が、男子に人気?
「葵ってさ、このままだときっと高校生になったらもっともっと人気出るんだろうなぁって、そう思うと心配になった」
「そりゃ……そうだろうな」
「だよね、岩ちゃんも心配だよね? やっぱり高校生とかになったら葵も彼氏とか作っちゃうのかな?」
「作らない理由はねぇだろ」
「……やだなー」
「は?やだって……お前な。ていうか兄妹揃って似たような事を言ってんじゃねーよ、そんなもん高校生にならなきゃ分からねぇだろうが、今考えたって仕方ねーよ」
どこまでそっくりなんだお前ら。
いや、顔は全然似てねぇけどさ。
「岩ちゃんも嫌だよね、葵に彼氏が出来たら」
「は?……いや、別に」
「はァ? 別に?? 岩ちゃん何言ってんの!?」
「何って、高校生になればそりゃ葵にも好きな奴くらい出来るだろーし、彼氏の一人くらい作るだろ」
「やだ」
「お前なぁ」
自分は彼女を平然と作っておいて何言ってんだ。……及川のこういうところはいつまで経ってもムカつく。
「あーあ。岩ちゃんが、葵の彼氏だったらいいのに」
「……。」
は?
「なんで俺だったらいいんだよ」
「岩ちゃんならずっと葵の事をちゃんと守ってくれそうだし。そもそも岩ちゃんなら俺もよく知ってるし、安心して葵を任せられるよ」
「無理だろ」
「へ?」
「ずっと守るなんて、悪いけど無理だ。」
よりにもよって葵だ。
ちょっとでも可能性があるならまだしも、葵とはまともに話せねーし、目を逸らされるし、嫌われてないにしても葵が俺の事好きになるなんて、
「あり得ねーよ」
幼馴染なんて都合のいい関係だけど、結局それ以上はない。あり得ない。
葵はきっと俺なんかを見ない。
好きにはならない。
「でもさ、岩ちゃん」
「なんだよ」
「葵が目の前で危険な目に合ってたら、助けるでしょ?」
「当たり前だ」
「流石、岩ちゃん」
「何回でも助けるに決まってんだろーが、昔からその役目は俺だったしな」
「岩ちゃんかっこいー」
「うっせ」
葵が困ってたら、助けたいと思うし。泣いてたら、必死になって笑わせたいし、泣き止まむまでずっと一緒に居てやりたいと思う。
俺が助けたいから。
それに、葵の気持ちは関係ない。
ただそれには期限がある。
葵に好きな奴が出来たら、俺は下がる。
葵を守る役目はソイツになるだろうからな。
(それまでは、俺の役目だ。)
あの子を守るのは俺の役目
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