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お昼ご飯を食べ終えて、
茜に見送られながら岩泉君の教室へと向かった。



教室に向かえば、彼の姿はすぐに見つかった。




けどなかなか一歩が踏み出せず、
教室の入り口で立ち止まっていた。






「何してんだ?」

「!」


バッと見上げると、こちらを不思議そうに見下ろしている岩泉君の姿があった。あれ? 彼は、こんなにも背が高かっただろうか?





「俺に用か? あ、もしかして及川がまた何かしでかしたのか?」

「え、ううん、岩泉君に用があって」

「俺に?」

(もしかして学祭の時の事じゃねぇだろうな)




葵に名乗り出ろと言われたが、結局名乗り出せずに今に至る。そりゃそうだろ、葵が俺の事を好きだと知っても、はいそうですかと名乗り出せるわけがない。


けど、バレるのも時間の問題だ。
もしかしたらもう葵は、あの時の学ランの男が俺だと気付いているかもしれない。







「あのね、岩泉君」

「おう」

「茜に聞いたんだけど、学祭の時に私を助けてくれた学ランの男の人の事で、その」

「お、おう」


あ、やっぱり俺だとバレたのか?




「あ、あのね、岩泉君がその学ランの人を知ってるって聞いたんだけど、教えて欲しいの、あの学ランの人が……誰なのかって」

「は?」

「学ランの人の正体はうちの生徒だって事までは分かってるんだけど、どの学年なのか……岩泉君は知ってるんだよね?」

「…葵、お前、あの学ラン野郎の正体知らねーのか?」

『うん、茜は教えてくれないし、岩泉君に聞いてきなって言うばかりだし』

「(あいつ…)」


わざわざ俺の所に葵をけしかけるたぁ…


でもまぁ、ずっと正体を名乗り出なかった俺も悪いのか…つーか葵はずっと学ラン野郎の正体を探っていたのか?会いたいと思っていたのか?

そんなに、好きなのか?






『…岩泉君?』

「あのよ、葵」

『うん』

「その、学ランの奴に、会いたいのか?」

『そりゃまぁ…ちゃんと助けてくれたお礼も言いたいし、それに』

「それに?」

『…なんでもない』

「…。」


なんでもないと言った葵の顔は照れているのか、ほんのり赤く染まっていた。





これは、期待していいのか?






「…葵、確かに俺は学ラン野郎の正体を知っている」

『じゃあ』

「…とりあえずこっち」


廊下で話す事じゃねぇ…と思い、葵を人気のない昇降口まで連れて来た。






『岩泉君?あの、学ランの人の事を聞きたいんだけど…?』

「ああ、でも、その前にこれだけは言わせてくれ」

『?』

「俺は、今でも葵が好きだ」

『…え』

「諦めるつもりなんてない、例え葵がその学ラン野郎の事が好きだとしてもだ」

『岩泉君…でも、あの』


案の定、葵は困っていた。
…俺が困らせている。






「あの時の学ラン野郎は、俺だ」

『…え』

「学祭の時、5組は学ラン着てただろうが」

『あ、確かに…でも般若のお面とかは』

「クラスの連中に無理矢理な、3組を襲撃して来いって言われてあの格好でウロついてたんだよ、そしたら葵が他校の奴らに絡まれてたから助けた」

『本当に、あの時助けてくれたのは岩泉君だったの?でもそれだったらどうしてすぐに逃げたの?』

「あんな格好してるのが俺だとバレるのが恥ずかしかったからに決まってるだろうがッ!」

『…。』


大きな声で葵に言うと、ぽかんとしていた。






「学ランならまだしも、般若の面に釘バットだぞ?どう見ても変だろうが」

『でも、そんな姿なのに私を助けてくれたでしょ?』

「あったりめーだろ、好きな女が目の前で絡まれてるのに見過ごせっかよ」

『…!』

「あの時の事は忘れろ、出来ればもう思い出して欲しくねぇ…」

『…嫌』

「は?何でだ」

『嬉しかったから、格好良かったから』

「!」

『ドキドキして、好きになったから』

「…葵、お前、何言って」

『…急に現れて、私を助けてくれて、凄く格好良かった、嬉しかった、なのに忘れろって言うの?この気持ちも全部、全部、忘れちゃえばいいの?』

「…それは」

『いつも、ううん…昔から岩泉君は私の事を、助けてくれてたよね』

「そうだっけか」

『私、泣き虫だからいつもはじめちゃんを困らせててた』

「…懐かしいなその呼び方、あと昔も言ったかもしれねーが、俺は別に嫌じゃねーぞ、葵の事を助けるの」

『うん…』

「俺がいつでもどこでも助けてやる、俺に任せろって約束しただろ」

『ずっと…うん、覚えてる』

「その約束つーのがまだ有効なら、好きなだけ俺を困らせろ。泣き虫でも俺は葵が好きだ、いいから大人しく俺に守られておけって」

『…いわ、いずみ君』

真っ直ぐ、男らしい彼を見上げていると
目の奥がじわりと熱くなった。


どうして彼はこんなにも私を、
どうしていつでも彼は私の事を、






『…私、岩泉君に、酷い事したのに』

「気にしてねぇ…とは流石に言えねーけどよ」

『…ごめん、なさい』

「それ以上に、俺は葵が好きだ」

『!』

「幼馴染としてじゃなく一人の女の子としてな、俺にもまだチャンスがあるなら、俺と付き合って欲しい」

『私で、いいの?』

「葵がいい、例え今また振られたとしても、俺は葵を好きだった事は忘れない。俺のこの手で葵の手を握れなくても…」


そう言うと、
俺の右手を葵がぎゅうっと握ってきた。




「葵?」

『…握る、だから忘れないで。私も岩泉君好きだから、手ならいつでも握る』

「葵…お前、顔真っ赤」

『…うるさい、仕方ないでしょ、こういうの苦手だし』

「ふはッ…いや、いいと思うぞ。そんな葵も可愛いしな」

『可愛くない、都合のいい女って言いたいでしょ?一度告白を断ったのに…今さら好きだなんて』

「んな事ねーよ、今となってみれば他の男にくれてやるより何倍もマシだ。」

『岩泉君…』

「はじめちゃんって呼ばねーのか?」

『…え、いや、流石にもう高校生だし』

「そっか、じゃあ高校生らしい事しとくか」

『え?』



そう言って彼の方を見上げると、

唇に何かが触れていた。






思わず驚いて、繋がれた右手を離しそうになったがすぐに岩泉君の手に掴まれて繋ぎ直された。ついでに言うといつの間か私の左手も彼に捕まっていた。






角度を変えて、何度か唇が触れ合うと

ゆっくりと私から離れていった。






「…あー、心臓がすっげーうるせェ」

『…今、き、きき』

「キスだな」

『…!』

「つーか、大丈夫か?」

『無理…なんか熱い、泣きそう』

「いや今泣かれると流石に凹む…そんなに嫌だったか?」

『だって、これ以上好きになったら』

「は?」

『…い、今の忘れて』

「…いや無理だろ」



ぎゅうっと抱きしめてみたら意外にもすっぽりと収まった、思ったより細いみたいだ。やっぱり女の子ってやつは男とは違うようだ。まぁ男を抱きしめた経験はねぇけどな。






「葵、何かあったらすぐに俺を頼れ」

『分かった』

「相談する時も及川じゃなく俺にしろ」

『徹じゃなく?分かった』

「あいつみたいに万能じゃねーけど…出来る事はする」

葵の顔を覗いてみると、嬉しそうに笑っていた。その笑顔が、やっぱり俺は好きだ。






(お互いの心音は、しばらく落ち着かなかった)

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