28、ほらこんなにも簡単に
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朝起きて、
洗面台の鏡を見てため息をついた。





「(目が、赤い)」


やはりというか、これじゃあ「泣きました」って言っているようなものだ。


凄く酷い顔だ。






岩泉君に告白されて、私は泣いてしまった。私はなんて事をしてしまったんだろう。

素直に岩泉君の気持ちを受け入れるべきだった?いやでも私の心はそこまで上手く出来ていない。






「好き」だと言われて

一番最初に出てきた気持ちは

「恐怖」だった。



幼馴染だと思っていたからこそ、安心していた部分はある。私に寄ってくる男の人とはどこか違うから。





安心していた分、

崩れた時はショックだった。










「……はぁ」




今日は部屋に引き込もう、徹にこんな顔、見られたくないし。







「葵ー、俺も歯磨きしたいんだけど」

「!?」


後ろから徹の手が伸びて来て、
徹は青い歯ブラシを手に取った。







「お、はよう」

洗面台の前からコソコソと離れ、逃げようとした。







「おはよー、そういや昨日は岩ちゃんに送って貰ったんでしょ?」

「う、うん」

「電話出れなくてごめんねー、女の子達に捕まっちゃってて」

「た、大変だったね」

「いつの間か岩ちゃんも帰っちゃうしさー、俺寂しかったよ」

「そうだね、じゃあ私はこれで」

「葵? まだ寝癖ついてるよー?」

「!」





洗面所から出ようとすると、徹に腕を引っ張られた。




そして顔を見られた。










「葵?」



カラン……と

徹が咥えていた歯ブラシが落ちた。







「え、何、その酷い目、葵? もしかして泣いた?」

「こ、これは」

「やっぱり泣いたんだ? 昨日なんかあった?」

「何も、ない」

「口元に手がある時は嘘ついてるんだっけ?」

「!?」




なんでそんな事覚えてるの。







「もしかして昨日? 昨日の夜に何があったの?」

「徹には、関係ないよ」

「あるから言ってんの!」

「……っ!」



肩をグッと掴まれて、痛かった。
徹がこんなにも怒るは久しぶりだ。











「岩ちゃん……?」

「!」

「岩ちゃんに泣かされた? そんなわけないよね!? だって岩ちゃんはいつも葵の事をっ」

「……。」





忘れようとしてたのに、徹のバカ。


また涙が溢れてしまった。










「葵?」

「……ごめん、部屋に戻るね」



徹から逃げるようにして部屋へ急いだ。





まだ、胸がギュッとして苦しいんだ。


不安定な気持ちが嫌になる。





岩泉君と幼馴染じゃなかったら良かったのに、とか

私が岩泉君の事を異性として見れたら良いのに、とか




グルグルと回るんだ。
















****









俺は走った。



夏休みだけど、
今日も朝から部活の練習がある。





俺は走った。


葵の涙の理由を知る為に。












「岩ちゃん!!!」



バレー部の体育館に入って

岩ちゃんの背中を見つけて叫んだ。







「……。」

「岩ちゃんっ! なんで、なんで葵を泣かした!」


振り向かない岩ちゃんに向かって、そう言い放った。周りが聞いていようが関係ない。葵の涙の理由が知りたい!






「岩ちゃんは絶対に葵の事泣かさないじゃん! なんでっ? 昨日何があったの?」

「……うるせぇよ」

「岩ちゃん!!」



答えない岩泉に、及川は無理やり岩泉の腕を掴んで言った。










「岩ちゃ……」

「あ"?」

「(ひィッ!)」




なななな、なんで岩ちゃんガチ切れモードなの?






「あ、あの岩ちゃん」

「なんだ」

「葵が泣いてた理由とか、知ってる?」

「知ってる、俺が泣かした」

「!!!」



彼は今何て言った?

泣かした?







あの岩ちゃんが?


なんで??


だって岩ちゃんはいつも葵に優しくって、泣いてたらいつも泣き止ませるのは岩ちゃんだったはず







「なん、で? え、なんで?」

「うるせぇ」

「なんで泣かしたの!?」

「……。」

「岩ちゃん!」

「……好きだって言った。」

「え?」

「そしたら、泣かれた」

「え、いや、え?」

「ごめん、って謝られた。」

「ふ、振られたの?」

「うるせぇ」

「……。」




なんという事だ。まさか、岩ちゃんが葵に告白して、name2#に振られるなんて。

だって葵は岩ちゃんの事好きだって言ってたし、なんで二人はくっついてないの?







「葵は岩ちゃんの事好きだよ」

「慰めてんのかそれ」

「そうじゃなくて」


本当に葵は岩ちゃんの事。






「葵が俺を好きなのは幼馴染としてだ」

「!」

「それ以外にあんのか?」

「そんな……」



こんな簡単に終わっちゃうの?
幼馴染の関係ってもう終わっちゃうの?


今まで、仲良しだったじゃん。





「もう、戻れないの?」

「さぁな、俺は葵を泣かせちまったしなぁ」

「でも」

「及川、」

「……岩ちゃん」

「もう何も言わないでくれ」





辛いんだ。


苦しいんだ。





こんなにも簡単に、崩れたんだ。











「(あっけねぇ)」




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