21、この気持ちはまだ伝えない
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どうしたんだ俺、なんか変だぞ俺。



俺ってこんなに独占欲強かったか?





「(あれは絶対に認めなくないけど、嫉妬だ)」


あの写真部の先輩に、嫉妬したんだ。






そりゃ、葵とは小さい時から一緒にいたし、一緒に帰ったり、1番よく話す女子って言ったら葵だった。




及川の妹だからじゃねぇ、葵だから今まで一緒にいたんだ。







分かってたはずなんだよ。




中学3の時に、何の前触れもなく葵に距離を置かれて、いつか俺と葵は離れていき、昔みたいにずっと一緒なんてあり得ねーんだって、そんな事を思うようになった。


葵と突然話せなくなって、しばらく避けられて、ああ俺は葵に嫌われたんだなって思ったら



凄く辛かった。







ずっと仲良しこよしの幼馴染なんて無理だったんだって、思い知ったんだ。






でも、


理由もなく離れるのは嫌だった。




だから葵にぶつけたんだ。





葵と前みたいに、一緒に居たかったんだ。このまま離れるのが苦しくて嫌だった。




葵も昔みたいに「仲良くしたい」と言ってくれた。


避けられた理由はよく分かんなかったけど、葵はいつもの葵に戻ったようだった。






また隣に、


葵がいる。











「はぁ……」

「岩泉、ため息つくなよ。もうすぐ5組試合なんだぞ」

「悪ィ」



今日は校内イベントで球技大会が行われていた。全学年で行う為、今日はずっとジャージ姿だ。


球技大会で野球を選択した俺は、自分のクラスが試合になるまで体育館で他の球技試合を見ながら待機していた。ちなみに俺の横にいる奴らも野球だ。
流石に6月だっていうのにクソ暑い校庭で試合開始をひたすら待つわけにもいかず、こうやって俺ら野球組は体育館のステージに座ってボーっと眺めていた。







「お、葵ちゃんめっけ!」

「!」


隣にいる男子は確か葵の事を気に入っている奴だ。今も、葵の姿を見て目で追っていた。





「お! ホントだ、及川さんだ」

「なぁなぁ岩泉ィ、いつになったら及川さん紹介してくれんの?」

「おー」

「いやだからいつ紹介……」

「今度な」

「今度っていつだよ」




周りの奴らは、遠くにいる葵を見ていた。いつもの光景なのに、

今は、少し嫌だった。








「(遠く感じる)」



葵が、また離れて行くんじゃないかって思った。この中にいる奴が、葵の手を引っ張って連れて行ってしまうんじゃないかって、そんな事ばかり思ってしまった。






「可愛いよなー、及川さん」

「(知ってる)」

「ずっと見てたいよなー」

「(ずっと見てきた)」

「俺もあんな子と付き合いたいー」

「(付き合う?)」




俺と葵が、付き合う……








無理だ





そんな事、考えるな俺。


ああ、そうか俺怖がってんだ。
この気持ちが何なのか。


知ったら、ダメな気がするんだ。





葵の事、取られたくないくせに
独り占めしようとする感情にビビってんだ。



「私には、そういう経験がないので付き合うとかそういうの、まだ早いかなって……」



以前、葵が言っていた台詞だ。


きっと何度も告白されているだろう葵はいつも断っていたらしい。
その言葉が俺にも向けられると思うと、悲しくなる。凹むってレベルじゃねぇと思う。


きっともし俺が葵と付き合いたいと願っても、葵は拒否するだろう、俺なんかじゃ駄目なんだろうな。



だったら今のままでいい、


隣で笑ってて欲しいし、


頼って欲しい。









あ、俺……これって重症だよな。


葵の前で普通に出来るか、俺。


いつも通りでいられるのか、俺。










「はぁ」





「岩泉君」

「うわ!」


気付くと葵が前にいた。





「もう、さっきから呼んでたよ? どうしたの? ため息ついてたし、元気ない?」

「お、おう。いや……元気」

「そう?」


葵が目の前にいると、
隣にいた男子がガン見してきた。



いや、俺は何もしてない。断じて。




すっげぇ見られてる

葵、気付いてねーの?






「葵、」

「ん?」

「あっち行くぞ」

「うん?」



俺がステージから降りて体育館から出ると、葵も小走りで着いてきた。




靴を履き替えて、体育館裏の涼しい日陰に移動した。ちらほら人は居たが、体育館よりは少ないしマシだ。






「葵は試合終わったのか?」

二人で壁に寄りかかって、葵に話しかけた。





「うん、私は最初の試合で負けちゃったの。私はバスケしか選択しなかったからこの後ずーっと暇なんだよね」

「マジか、じゃあ野球の試合でも見てくか? もう少ししたら俺らの試合が始まるから」

「うん、そうする」


笑顔でそう言った葵の顔を見て、さっきまでもやもやしてた気持ちがどっか行った。





でもこの気持ちはまだ伝えねぇ。

もうちょっとだけ、俺の気持ちに気付かないで隣に居て欲しい。










「あっれー? 岩ちゃんと葵だー」

ひょっこり体育館裏に現れたのは及川と、見たことのない女子生徒だった。





「二人共、さっきの俺のバスケの試合見てくれた?」

「見てねェ」

「ごめん、見てない」

「なんで!?」

「え、だって女の子いっぱいいたし、私がいたら邪魔になるかなって」

「葵なら大歓迎だよ!?」

「でも……」


(なんか徹の隣にいる女の子に凄い見られてる)







「徹君、あの……」

「葵はバレー? バスケ?」

「バスケだよ、でももう負けた」

「ええ!? なんで教えてくれなかったの!?」

「あの、徹君……」

「見たかったなー、葵のバスケ。ついでに岩ちゃんの野球も」

「あの……」

「ついでかよ」

「だってどーせ勝つでしょ?」

「あの!!!!!」



徹の隣にいた女子生徒が、大声をあげた。







「えっと、どうしたの?」

「(ん?)」

「徹君は貴女に渡しません! から!」



女子生徒は葵の方を向いてハッキリとそう言い放った。







「え? 私に?」

「あの、その、私の方が、徹君の事大好きですし! だから駄目です! 貴女には渡しません!」

「……。」

「じゃ、邪魔しないで下さい! どっか行って下さい!」

「……。」









「(やべぇ、葵が無表情だ)」



これは怒ってる時の顔だ。

この冷たい表情は、怒ってる。


滅多に怒らない葵が怒ってる。







「オイ、葵、俺らはそろそろ行くぞ」

「ねえ、どっか行けって、どうしてそんな悲しい事が言えるんですか?」

「……え」

「そんな事言ったら、いつか大事な人もどこか行っちゃいますよ」

「そ、そんな事」

「はいはい、そのへんで! ごめんね、俺が紹介しなかったのも悪いし」



徹が私達の間に入ってきて、

ごめんごめんと言っていた。






「徹君っ、なんでこの子をそんな風に庇うの!?」

「この子、妹の葵。」

「妹!? え、だって一年……」

「双子なんだよね、俺と葵は」

「え!? 私、知らなくて、その」

「ううん、知らなかったなら仕方ないよー」

「徹君……」

「とりあえずさ、俺の前から消えてくんない? 先輩」

「え……?」

「別に俺の事を悪く言うのは良いんだよ、でも葵は駄目。俺が葵に殴られるの嫌だしね」

「殴んないし、私が徹を殴った事は一度もないでしょ」

「と、徹君? 私は、徹君の事……」

「ごめんね」


徹がそう言うと、女子生徒は瞳に涙を溜めて走り去ってしまった。









「いいのか、及川」

「いいよ、あの先輩しつこかったし」

「徹って、年上好きだっけ?」

「うーん、俺は女の子なら特に好みはないよ、女の子はみんな好き」

「……。」引

「引かないで葵……」

「というか、よく先輩って分かったな、葵」

「えっと、靴紐が2年カラーだったから」

「ああ、なるほどな」


そういえばそうだな。







「あ、悪ィ……そろそろ時間だ」

「私も行くよ、応援しに」

「じゃあ俺も岩ちゃんの応援しに行こうかな」

「……おう」



及川兄妹の二人に見送られ、校庭の集合場所に向かった。














「おい、岩泉」

「ん?」


試合に使うバットを選んでいると

同じクラスの男子が話しかけてきた。







「及川さんが見に来てくれてるのはすっげぇ嬉しいんだけどさ」

「おう」

「なんで及川徹も一緒に見に来てんだよ!」

「……。」

「女の子みんな及川徹見てんじゃん! うちの組の女子も応援そっちのけでみんな及川徹見てんじゃん!」

「お、おう」

「せっかくの女子の応援が! 及川徹まじムカつく! でも妹は可愛いから許す」

「……おう」



「岩泉君! 頑張れー!」


葵の方を見ると、自分への声援が聞こえてきた。やっぱり葵に応援されるのは悪くない。






「やっぱり岩泉もキライ、俺だって及川さんに応援されたい」

「オイ、試合始まるぞ」




(お前ら葵ばっかり見てねーで試合始めようぜ)



この気持ちはまだ伝えない


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