君や来し我や行きけむ おもほえず
 夢かうつつか寝てか覚めてか





【あなたの運命の人はどこに?タロットが幸せな恋を導きます
    喫茶サザンクロス こちら→】



「‥商売する気あんの、コレ?」


始まりは駅前で見つけた薄汚れた看板だった。

アスファルトにじりじりと照り付ける陽射しのお蔭で、制服の中はサウナ状態だった。
お気に入りのキャミがべったり肌に張り付く感触にイライラするような、部活帰りの午後。
愚痴を零せる友達と電車内で別れ降りたのはローカル線のマイナーな駅だから、昼間と言えどほぼ無人だったりする。

ここから家まで徒歩十五分。
早くクーラーの下でアイスを食べたい。そんな事ばかり考えていた時、いかにも怪しげな看板に思わず足を止めた。
本気で客を呼ぶ気はないのか。
横書きのくせにやたらと達筆で、どう見ても毛筆。

‥‥‥何だろう、これ。

それが正直な感想だった。






私だって人並みに彼氏が欲しかったりする十七歳。
けれど内気なのが難で、周りの子みたいに気軽に男子と話すことも出来なかったりする。
そんな訳で今まで彼氏ナシ。

占いなんて別に信じていない。
信じていなかった。

‥‥‥けれど。


「運命の人‥‥」


どうしたんだろう。
看板の字を口に出した瞬間、無性に泣きたくなった。

それはほんの気紛れ。ほんの好奇心。

後になって考えれば、この時の行動は私らしくない積極的なものだったけれど、この時はそこまで考えてはいなくて。


「‥‥すみません、占ってもらいたいんですけど」


いつもなら怪しんで近寄らない古びた木製のドアが、ギィ、と軋む音を立てた。
元々はバーだったんだろうか。
これまた古びた木製のカウンターが、西部劇ドラマを思い起こさせるような。
オレンジの明かりがランプのようで、カウンターと椅子以外何もない空間を柔らかく照らしている。


「‥あの‥‥‥?」


入ってもいいのか、悩みながらも一歩足を踏み出した。
‥‥誰もいないのかな。
それなら帰ろうと、踵を返そうとした時だった。


「ああ、お待ちしておりました」

「わぁっ!!」


急に後ろで声がしたものだから、飛び上がるのは仕方ない。
ひっくり返るような心臓の動きと共に振り返ると、半歩ほど後ろに見知らぬ男の人が立っていた。
‥でも、いつ近付いたんだろう。気配を感じなかったけれど。


「当店にご用でしょうか」

「あ、はい。占いをやってるって‥あの、看板‥」

「ええ。やってますよ」


しどろもどろに言葉を繋ぐと、その人はそっと笑った。
最初に驚かされたからと言うのもあったけれど、急に笑顔になられるとなんだか落ち着かない。
綺麗だと思う。
男の人に綺麗だなんて失礼かもしれないが。


「藤崎花音さん」

「えっ?」


どうして、名前‥‥‥?


「貴女の運命の人に逢いに行きましょう」

「‥‥‥はぁ」


男の人が弧を描く口元を、ただ唖然と見ていた。






【占う】ではなく【逢いに行く】と


その言葉の意味が、上手く飲み込めないまま。



彼の手に私の手を預けて、優しく引かれるままカウンターの奥のドアの中に。




 

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