小説 | ナノ


▼ 死の夢

第一夜。

 拷問室にて、感染死。
 私はどうやら取り返しのつかないミスを犯したらしい。
 紐で繋がれた四肢は痺れた後冷え切って、血が通っていないようだった。
 薄暗い中では自身の姿を確認することはできないが、壊死しているだろう。
 生きることを諦めたとき、重そうな扉が開いた。
「やあ」
 入ってきた人物が陽気に笑う。
 その人物になんの感情も抱かないまま、首だけをそちらに向けた。もっとも、首以外動く箇所なんてなかったのだが。
「君の処分が決まったよ」
 そういって人物は注射器を懐から取り出すと、薄緑色の液体をちらつかせた。
 鮮やかな色が目に焼き付く。暗い部屋の中でも確認できるエメラルドの澄んだ色。
「じゃあ、さようなら」
 感覚のない腕を捕まれ、否応がなしにぶすりと刺される。
 瞬間、脳みその中で何かが爆発するイメージが揺さぶられた。
 連鎖する細胞がドミノのように連続で消えていく様子。
 痛みもなく、私は冷たい床の上に倒れた。
「間違えるとこうなるからね」
 倒れ込んだ私を指して、人物が誰かに言う。
 同じ格好をしたもう一人の私が、恐怖に彩られた目で私の死体を見つめていた。

第二夜。

 自室にて、他殺。
 それはとある家を探索していた時の話。
 必要な道具があるということで、仲間たちと廃屋の中を漁っていた。
「何かがあるぞ」
 リーダー格の少年がこちらに来いと合図する。
 数人の仲間と一緒に声のする方へ行くと、汚れたベッドがあった。
 その上に、汚い毛布にくるまれている大きなものがある。
「こりゃあ使えるものかもな」
 ばっと毛布を引き剥がすと、ドス黒く汚れた光景が飛び込んできた。
 飛び散る赤黒いもの、首を縄で占められたまま放置された遺体。
 目や口、腕には青いガムテープ、拘束された跡。
 白い服、長い髪、紛れもない自分の姿。
 仲間たちが驚く中、ああ、私は死んだのだと無感動に頷いた。

第三夜。

 教室から、投身自殺。
 逃げてはダメだと言われた教室の中で、終わらない暴力に巻き込まれていた。
 見知った顔も、見知らぬ顔も、一様に鈍器を振りかざして殴ってくる。
 衝撃も苦痛も感じない私はされるがまま座り込んでいた。
 空が夕焼けに染まる頃、ようやく人々は教室を後にした。
 流れた血でぬめる制服と床を感じながら起き上がると、おもむろに窓の側に立って下を見る。
 異常とかけ離れた、よくある放課後の風景が広がっていた。
 今なら大丈夫かもしれない、と窓を開け放って身を乗り出す。
 そして、そのまま窓の外へ逃避した。
 美しい空と、風の感覚が涙を誘っては上空へ連れ去った。
 落ちれば落ちるほど心が軽くなっていく。
 暗転と同時に、瞼の裏に咲いた彼岸花が一斉に揺れた。

第四夜。

 室内にて、出血死。
 銃を突きつけられた。
 なにか作戦を決行していた矢先、反抗していた組織の人間に見つかった。
「手を上げろ。さもなくば、こうだぞ」
 白衣の男が下卑た笑いを浮かべた途端、仲間たちの一人に向けて発砲した。
 それよりも早く、前に飛び出るように走り出すと、組織の人間に体当たりをしようとした。
 勇気ある行動も虚しく、あっさりと肩、腹、太もも、腕に銃弾を食らい、冷たい床の上を赤い血の跡を引いて転がった。
 逃げようとした仲間たちが凍りついたのを横目で見て、血の止まらない傷口に手のひらをやった。
 ああ、熱い。こんなにも手のひらは冷たいのに。
 組織の人間は遊ぶのに夢中のようで、恐怖で固まる仲間たちを威嚇しながら床に向けて発砲するのみ。
 騒乱の中、私の赤色と対照的な白いパーカーの青年が側にやってきた。
 顔の見えない彼は何も言わないまま、ただはらはらと雨のように涙を流し、物陰に私を運ぶと、側に座って動かせない手に、頬に、唇に触れてくる。
 逃げてください、そんな言葉さえ伝えられないもどかしさ。
 彼の服や手が血で汚れる様を、狭くなっていく視界の中で捉えるたび、汚れてしまったと残念に思った。
 残った力で唇を動かすと、ごぼ、と血が溢れて余計に服を汚した。肌に流れる血が冷え切った体を温め、それが心地いいと感じる。
 まだ動いた指先で、彼の服の裾を掴んだ。気がついた彼は私の手を取ると余計に顔を歪ませて涙を流した。
 ああ、足音が聞こえる。
 彼の背後に、銃を構えた男が立っていた。

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