第二部 | ナノ


▼ 第六楽章〜邪神の村〜

 村の中はかなり広かった。家々の間には畑があり、穀物や植物が植えられ、木には果実が実っている。中央部は円形の広場になっており、祠が祭られている。そこでは美しい少女が白装束を身につけ、花や枝で作られた冠を被って一心に祈っていた。
 その少女の周りには先ほどの男達がおり、番犬のように何人も近寄らせないように警護している。異様な緊張感が周辺を支配していた。
「なんだ……あれ」
「巫女さんなんじゃないかな。たしかあの服装……神話の時代の神官をモチーフにした、伝承の神子の格好だよ」
 すらすらと知識を語るリフィアは怪訝な顔でその様子を見ていた。
 少女は何かに脅迫されるようにひたすら祈り続けている。声は小さく聞こえなかったが、纏う雰囲気は真摯であり悲しみに満ちていた。白く小さい横顔は垂れる淡い金髪に隠れて見えなかったが、その様子はとても神秘的であった。
 ぼーっと見ていたリュシアンは三鬼に急かされ、四人は長老の家に着いた。階段を上り、木の扉を叩く。しばらくして、軋んだ音を立てて中から男性の老人が顔を出した。
 老いた長老は不思議な円形の文様が描かれている服に身を包み、腰に薬草を吊るしている。まさに物語に出てくる術師のような姿に少々気圧されつつ、薬草の焼いた匂いのする家の中へ案内されるままに、彼らは長老の家へ入った。
 床や壁は平らな木で覆われ、見た目以上に住みやすそうであった。木でできているため空気がよく通り、外よりも涼しかった。通された部屋には木製の大きな机と椅子、乾燥させて粉末にした薬草や呪術に使うと思われる色鮮やかな石の詰められた瓶の並べてある棚、そして書物や筆、食器の入った小さな箱が置かれており、綺麗に整頓されている。
 長老と向かい合うように机を挟んで椅子に座ると、村人と同じ格好をした少女が奥の扉から現れ、テキパキと茶を用意すると机に並べた。
「ありがとうサーシャ」
 サーシャと呼ばれた少女は長老に礼を言われると恭しく頭を下げ、もう仕事は終わったと言わんばかりにさっさと戻ってしまった。
扉を閉める時、視線がばっちり合ってしまったセナは少女の冷めきった瞳に驚いた。
まるで何もかも諦めきったような、目。
 胸のあたりが重くなったような気分に苛まれるセナに誰も気がつかず、長老が話を切り出す。
「さて、貴方達を呼んだのは他でもありません。ある魔物を討伐してほしいのです」
「こちらの魔物ですよね?」
 リフィアが荷物から本を取り出すと、セナが依頼の説明を受けた時に見たおぞましい魔物の絵が描かれたページを開いて長老に見せた。
「はい。今この村は、こやつに苦しめられているのです」
「……作物が食い荒らされているとか?」
「いいえ違います。村人に被害が及んでいるのです。そして、魔物はこの村に住みついています」
「!!」
「貴方達も見たでしょう、祠を。あの祠は奴の住処。そして祈りをささげていた娘は、今回の生贄です」
 四人は絶句したまま、用意された茶にも口を付けずただ長老の話を聞いていた。
 老人曰く、絵に描かれた魔物は邪神であるらしい。神とは名ばかりの低級魔族であり、四日に一人、純潔の娘を要求する。
 そして要求を拒むと村を破壊し、命からがら逃げ切った村人たちの血を百代まで呪い続けるという悪質極まりないものだという。
 物語としては陳腐な邪神である。ただ、奴が他のものと違うのは、純潔の娘に神子の格好をさせ、儀式を強要させること。その儀式は千年樹の為に最低限の行動以外三日三晩祈りの言葉を唱えなければいけないというものである。
「……いつから邪神はこの村にいるのですか」
 セナが重い口を開いた。
「多分千年ほど前からです。当時、人々は神と勘違いして魔物を奉り、村の豊作を祈願したそうな。後にその時の神子様が訪れた時、封印を施したと言われています」
「なぜ封印を解いてしまったのですか? 魔物と知っていたのに」
「解いたのではなく、解けてしまったのです。突然のことでした。神子様の封印が弾け飛び、丁度祠の前を通った娘を引きずりこんで、恐ろしい声で要求を始めたのは。……今までに、六人も娘が居なくなりました」
 長老はため息を吐いた。
「そして急なのですが、明日早朝、魔物が祠の前にいた娘をさらうそうです」
「では、明日が攻撃のチャンスですね」
 リフィアはぐっと手を握ると、底抜けに明るい笑顔を浮かべた。
「大丈夫! 何とかなるわ」
「だな。あの子がさらわれないためにも、俺達で何とかしなきゃ」
「しかし、相手は低級と言えど邪神。十分お気を付けて。今日泊まる貴方達の部屋は、空いている家一軒をお貸ししましょう。」


2*7

prev / next

[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -