第二部 | ナノ


▼ 第六楽章〜邪神の村〜

 数日分の水や食料、魔石と傷薬、村への地図を持った四人は町はずれの森の奥にある小さな村を訪れた。
 王都から約二日。北へ道なりに歩いていけば深い森と、その奥には針の様な谷間が顔を覗かせる霊峰がそびえている。今回訪れる村は古き神話の時代から存在しているという原初の森の奥にひっそりとあった。鬱々とした幻影森とは大違いの、可愛らしい雰囲気と明るい日差しの差し込む森の村はどこか閉鎖的であり、冒しがたい神聖な空気に満ちていた。
 王都の石造りの町とは正反対で、家々は森の中に溶け込むように自然と調和する外見であった。屋根、壁、床……全て木材で出来ており、床は地面から一メートル程高い場所にあり、中に入るためには階段を上らないといけないようだ。
 茶色の屋根には木の枝と葉が円になった模様が彫られ、緑色の染料が塗られている。模様の中心に各家の紋章が彫られ、ある家は鹿の角と槍、ある家は白い帯と薬草であった。
 そこに住む人々は、都市部で多くみられる金糸でスカートやチャック部分を装飾した服ではなく、素朴で色彩に欠けた飾り気のない服を身につけていた。一枚の布を縫い、ワンピースのように着て腰のところをそれぞれ革のベルトや鮮やかな色の紐で結んでいる。どうやら麻で出来た服なのだろう、布の目は粗く涼しそうだった。
 四人が村に足を踏み入れた途端、よそ者へ向ける好奇と疎ましさを込めた視線が刺さった。女たちは子供を家の中へ引っ張り込み、笑い声や話し声で溢れていた村に静寂が訪れる。男達は怪訝な様子で訪問者の行動を観察していた。
「うう……歓迎されていないのかな」
 リフィアが肩をすぼめながら隣の三鬼に言った。リュシアンも村の雰囲気にたじろいでいるようで、困ったような笑顔を浮かべて頭を掻いている。
三鬼は、そんなものだろう、と言うと村長に会いに行くために村の中へ数歩進む。
 その瞬間、ざん! と三鬼の傍に木で作った投槍が突き刺さった。
「三鬼さん!」
「待て、セナ」
 剣を抜こうとした少女をリュシアンがいさめると、彼は周囲を見るように促した。見ると武装した村人が四人の元へ集まりだしている。
「お前達、何をしに来た?」
 槍を投げたと思われる男が無骨に問う。筋肉隆々、口髭を生やした男は無遠慮に三鬼を下から上まで見定める。男は村人たちと同じ服の上に革の軽い鎧を身に付け、頭には赤い布を巻いていた。
 槍を投げた男と似たような格好をした屈強な戦士風情の男が数名、先ほど三鬼に飛ばした槍と同じものを手に持ち、厳しい表情で四人の少年少女を取り囲んだ。
 変な回答をすれば即座に槍の餌食だろう。リュシアンがごくり、と唾を飲み込んだ。リフィアはセナを庇うように前に立ち、静かに男たちを睨みつけている。
 三鬼は全く動じず、感情に染まらない瞳で男を静かに見た。
「ギルド『暁の剣』だ。魔物討伐の依頼を受け、出向いた」
「ふん、お前らみたいな子供が本当に『暁の剣』の団員なのか? そうであっても、犬死にするだけだろうな」
 その言葉に男達は苦笑し、若者達を嘲笑った。まるで、今回の依頼は確実に失敗するという風である。依頼を出したのは彼らであるというのに。
 顔を真っ赤にしたリュシアンが何か言い返そうと、三鬼の隣に立った。リフィアとセナが制止するも既に遅かった。
「残念だけど、俺らは『暁の剣』だ! これがその証だ!」
 そう大きな声で言うと、胸を張って皮鎧に付いている紋章を指さした。剣を象った十字の紋章。ギルド『暁の剣―オーロル・エスパーダ―』のしるし。それはリフィアの鎧、三鬼の肩の文様、セナのマント留めに刻まれていた。
 あーあ、と言うように三鬼とリフィアが肩を落とす。どうやらリュシアンが挑発に乗りやすく、喧嘩っ早いのは今に始まったことではないようだ。
 男達は笑うのを止め、互いに顔を見合わせる。ざわざわとどよめきが起こり、感嘆と驚嘆の声が周囲を支配した。
「本当だったのか」
「まさか、王国随一のギルドがこんな子供達なんて」
 最初に槍を投げた男は三鬼に詰め寄ると不愉快そうに眉を顰め、村の奥にある大きな家を指さした。
 他の家と違い、枝と葉の紋章が一際大きく、中央に描かれている杖と天使の輪の様な円輪には金箔が貼られていた。
「長老はあそこにいる。くれぐれも無礼な態度を取るなよ」
 男はまだ認めていないようだった。冷たく疑惑に満ちた目で一瞥をくれると槍を地面から抜いて、男達を連れて引き下がった。
 勘違いをしたことや、槍を投げた事に謝りもせずに。
「……すごい態度ですね」
「そんなもんだろ。ほら、行くぞ」
 三鬼は先頭切って先ほど示された家へ歩く。


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