1歩ずつ | ナノ


▽ 7話


「あ、真ちゃん、涼香ちゃん元気にしてた?」
「は?」

体育館へ入れば高尾からの唐突な問いに呆気を取られる。
大体なぜ高尾の口からあいつの名前が出てくるのだよ。
確かに教えはしたが…

「あれ、ノート渡してきたんじゃねーの?」
「渡しては来たが直接渡したわけじゃないから姿は見ていないのだよ」
「そっかー」
「…あいつがどうかしたのか?」
「いやさ、」

高尾の話はこうだ。
午前練習だった土曜日に、たまたま男に絡まれていた人を助けるとそれが涼香で、大丈夫だと言われたけど怖くて泣いていたようだし心配だったと。
…こんなこと黄瀬に知れたら後が面倒くさくなりそうだ。
耳に入っていたら既に俺にメールを送りつけていたり、ここに乗り込んできてるだろうからまあ、大丈夫なのだろう。

「心配なら自分の目で確かめればいい」

彼女がわざわざ土曜に出かけたのが些か疑問だが…これは彼女にとっていい機会かもしれない。
こうして他人と話すことで少しずつ対人恐怖症も良くなるだろう。
どうも高尾を使う感が否めないが、保健室登校をしている彼女だから顔を見知っているのはきっと俺か高尾ぐらいだろうからしかたがない。


――――
―――


「自分で確かめろって言われてもなー」

どこにいるかわかんねーし…てか前もこんなことなかったか?
そう言えばいつもどこで会ってたんだっけ?
考えてみれば入学式の日の教室と、この前外で会った時以外は保健室でしか会ったことがないことに気付いた。
それからいつか俺が遅れて朝練に行ったときに見た保健室前にいたあの女の子も涼香ちゃんだったんじゃないかとふと思い出す。
真っ黒な髪もその長さも同じだったような気がする。

「よっし、明日保健室」

――――
―――

つーわけで、今保健室前にいるんだけど…よくよく思い出してみると涼香ちゃんっていつも俺見て怯えてるし、余計なお世話ってか話しても大丈夫だろうかとか考え出してなかなか入れないでいる。

「あら、どうかしたの?」

今言わなきゃいけないものでもないし、今度会ったときでいいかと思ったら開かれたドア。

「あ、えっと…涼香ちゃんいたりします?」
「ええ、いるわよ」

どうぞ。と中に促されば入るしかなく、ゴチャゴチャ考えてても結局は同じだからと保健室に入った。
先生は職員室に用事があるらしくそのまま外に。
中には2〜3人座れるソファーに座って、その前に置かれたテーブルに向かいシャーペンを握った女の子がいた。
こりゃあきっと俺が入ってきたこと気づいてねーな。

「…涼香ちゃん?」
『ひっ!…あ、た、高尾、くん』

いつかのように肩を震わせた彼女の手元からポキッと音が聞こえた。
どうやら驚いた所為でシャーペンの芯が折れてしまったようで、ノートを見たら書きかけの文字。

「ごめんな急に。驚かせるつもりはなかったんだけど」
『う、ううん。…あ、あの…先生、なら…職員室に』
「うん知ってる。俺涼香ちゃんに用があってさ」
『え、私・・・に?』
「用ってほどじゃねーんだけど、土曜日、あのあと大丈夫だったかなって」

そう言うと顔を上げた彼女は少し呆気に取られた様な表情をしてて、綺麗な色をした目と目が合った。
すぐに逸らされちゃったけど。

『…だい、じょうぶ…でした』
「そっか、よかった!」
『あの…あ、ありがとう…すごく、助かりました』

ぺこりと下げられた頭にギョッとする。
お礼を言われるために来たんじゃないから上げてよ、と少し慌てた。
ふとテーブルに目を移すと、古典の教科書が開いてあって、他にも何冊か別の教科の教科書が積み上げられていたのが目に入る。
ノートには開いてある教科書の現代語訳だと思われる文が書いてあって、綺麗な字だな。なんて思うのと同時に、ここまだ習ってないところだと気付いた。

「涼香ちゃんあったよ」
『!伊代さん、ありがとうございます』

受け取っていたのは多分古典に関する参考書?かな?
あ、そう言えば今何時…?
時計を見ればあと少しで部活が始まる時間で、思わずげ、と口から溢れた。

「やっべ、部活…じゃあね涼香ちゃん。先生も失礼しました!」


――――
―――


ガラ、と音がして、緊張から開放された私は盛大なため息を吐いた。
こんなに長い間、長い会話をしたのはいつぶりだっけ?
無意識のうちに握ってた手にはくっきりと爪の痕がついていて少し痛かった。

「幸せ逃げちゃうわよー」
『それは困ります…』
「それにしても、高尾くん頼もしいな〜」
『?』

歩きながら何かを呟いた伊代さんの言葉は聞き取ることができなくて。
でも私が反応しないことに対して何も言ってこないから多分ただの独り言だったのだろう。
私は伊代さんから受け取った参考書を開いてもう一度テーブルに向かう。
参考書くらい自分で用意しろと言われるかもしれないけどお生憎、こんな体質の私はこんな都会の人がたくさんいる本屋さんに行ってじっくりと本を選んぶこともままならない。
だから学校にいる間は、伊代さんが担当の教科の先生のところへ行って借りてきてくれる。
とっても不便で、私自身にも他人にも迷惑な体質だ。
ああ早く治したい…出来るのかな。

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